みかん小説
本棚

"台所の生贄、義母の黒革手帳" 第8話

達也は、そのにち尽くしていた。 実の母親のからびした、あまりにも々しく醜悪な本音に、完全に打ちのめされていた。 「母さん……そんなこと、ってたのか……? 俺と紗都子を……そんなに……」

修造は顔を真っ赤にしてそっぽを向き、美穂は「もうやだ、帰る!」と荷物を掴んでちがろうとした。

「座りなさい、美穂さん」 私のいに、美穂のがピタリと止まった。普段のしい私が絶対にさないような威圧に、彼女は怯えたようにそのにちすくんだ。

「話は、まだ終わっていません」 私は達也に向き直った。

「達也さん」 「紗都子……俺、本当にらなかったんだ。のことも、母さんの病気のことも……」 「らなかった、で済む話じゃないわ」

私は達也の目を、真っ直ぐに見据えた。 「あなたはろうとしなかっただけよ。あなたが番、罪がいわ」

「な……何で俺が!? 俺はに入って、丸く収めようと……!」

「丸く収めようとした? 違うわ。あなたは、母親の嫌を取るために、私を贄に差ししただけよ」 私の言葉は、達也の胸に正確に突き刺さった。

「あなたが実で『のんびり羽を伸ばす』ために、私が何もたい台所にっているのを、あなたはずっと見て見ぬ振りをしてきた。親戚のでいい顔をするために、私に無理難題を押し付けた。『もうし、母さんのことも考えてほしかった』? よくそんな言葉が言えたものね。

広告

あなたは度でも、私のことを考えたことがあった?」

達也の唇が震え、言葉を失った。

「あなたは男としての権利だけを誇らしげに主張して、裏で美穂さんがを奪っていくのにも気づかない抜けだった。そして親の介護というい現実がりかかってきたら、それを『嫁の役目』にして自分は全帯に逃げ込もうとした。あなたが実で見せていたあの『優しさ』は、親への孝なんかじゃない。ただの、甘えた子供の卑怯な保よ」

「紗都子……頼むから、そんな言い方……」 達也の目から、粒の涙がこぼれ落ちた。だが、その涙は私への申し訳なさではなく、自らの醜さを暴かれたことへの自己憐憫の涙だった。

私はく息を吸い、胸の奥に溜まっていたたい澱を、すべて吐きすように言った。

「私、会社を辞めません。もちろん、同居も介護もしません」

の全員が、息を呑んだ。

「達也さん、あなたと婚します」

「り……婚!? 何を言ってるんだよ紗都子! そんな、たかがお盆の帰省のいざこざで……!」 「たかが?」 私は乾いた笑みを漏らした。

「よ。、私はこの台所で、あなたの族の残飯を片付け、たいでを荒らし、透として扱われてきたの。私にとって、これは『たかが』のいざこざじゃない。私の尊厳をかけた、の分嶺よ」

私はバッグから、京駅で印刷してきた枚の用を取りし、座卓のに滑らせた。

そこには、私の署名と押印がすでに済まされた、緑の枠線の類――婚届があった。

「あらかじめいてきました。達也さん、あなたのサインと印鑑が必です。財産分与と養育費については、弁護士を通じて面でやり取りします。翼の親権は私が取ります。これまでのモラハラや、今回の介護の証拠、この台帳のコピーも全て揃っていますから、調になってもあなたの勝ち目はありません」

「紗都子! 待ってくれよ! 俺が悪かった! 謝るから! 母さんとも距を置く! もう度と実には連れてこないから!」 達也が畳に両を突き、私の元に縋り付いてきた。 かつてしたはずの男のその姿は、あまりにも矮で、れで、私のには片のも湧かなかった。

「距を置く? 無理よ、あなたには。あなたはこのの部だもの。……どうぞ、で仲良く、その歪んだ族ごっこを続けてください」

私は達也のを振り払い、踵を返した。

台所を通り抜ける。 流し台には、相変わらず油まみれの皿が積みなり、まな板には萎びたきゅうりが転がっていた。 だが、もうその景は、私を傷つけることはなかった。 それはただの、通り過ぎていく過の残骸に過ぎなかった。

勝をけると、真の烈な陽が、私の全を包み込んだ。 庭の百の赤いが、眩しい青空に向かって咲き誇っていた。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: