みかん小説
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"台所の生贄、義母の黒革手帳" 第3話

としてくつろぎに来る。台所に顔をすのは、来がった料理をつまみいするときか、「紗都子さん、うちの子ネギ抜きにしてね」と注文をつけるときだけだった。

そして夫の達也はといえば、座敷でビールをあおり、野球を見ながら義父や親戚の相をし、たまに台所を覗いては「紗都子、から揚げまだ揚がらないの? 親父が待ってるよ」と、悪気のない笑顔で急かしてくるのだった。

宴会が終われば、のような器のが残される。 洗などない、古びた層式の流し台。は凍えるようにたく、は油がを突くその所で、私はももち尽くして皿を洗い続けた。 ようやく片付けを終えて居に戻ると、そこにはすでにしいメロンや羊羹がされ、義母が「紗都子さんも座ってべなさいよ」と、芯の固い端っこの部分を差ししてくる。

帰りのので、達也はいつも満そうに背伸びをして言ったものだ。 「ああ、やっぱり実はいいな。たまにはこうやって、みんなでのんびり羽を伸ばすのも最のリフレッシュだよな」

助席で、疲れ果てて鉛のようにくなったを抱え、私はただ「そうだね」と答えるしかなかった。 のんびり羽を伸ばす? 誰の血と汗のに、その「のんびり」が成りっているのか、から説する気力すら残っていなかったのだ。

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そして今、私は転職というの転を迎え、ともに限界だった。だからこそ、義母の「来なくていい」という慈の言葉に、砂漠でを見したようないですがりついたのだ。

だが、それは慈などではなかった。 それは、「どんなに無理をしてでも駆けつけ、甲斐甲斐しく仕える従順な嫁」を演じることを求める、狡猾な踏み絵だったのだ。

メッセージを握りしめたまま、私は暗い部で夜をかした。 そして翌朝、始発の幹線の切符をスマートフォンのアプリで配した。 戦いにくためではなかった。ただ、この歪みきった構図に、自分自ので確な終止符を打たなければ、私は、この族の「見えない奴隷」として魂を吸い尽くされると直したからだった。

京駅を午にる幹線にび乗り、半。方都の駅でローカル線に乗り換え、さらにバスに揺られて、義実のをくぐったのは午過ぎだった。

玄関の引き戸をけると、微かに線の匂いと、い油の匂いが漂ってきた。

「……おはようございます」

声をかけると、居からてきたのは達也だった。 私の顔を見るなり、堵と、それ以に「ほら見ろ、結局来たじゃないか」という勝ち誇ったような侮蔑の入り混じった表を浮かべた。

「なんだよ紗都子、急に来るなら連絡本くらい入れろよ。

母さん、昨の今でまだ寝込んで……いや、さっき起きて台所にってるよ。ほら、く顔して謝ってこいよ」

達也は私の腕を掴もうとしたが、私はそのをややかに払いのけた。 「謝る? 何を?」 「何をって……おが来ないからのがめちゃくちゃになったんだろ。いいから、母さんに『遅くなってすみませんでした』って言えば、丸く収まるんだからさ」

達也の背を押されるようにして台所へ入ると、そこには割烹着を着た文恵がっていた。 文恵は私を見るなり、これ見よがしに腰にを当て、痛ましげな溜息をく吐きした。

「あら……紗都子さん。忙しいのに、わざわざ来なくてもよかったのに」

その声のトーンは、話のときとは打って変わって、湿り気を帯びた非難に満ちていた。 「すみません、お義母さん。体調を崩されたと達也さんから伺ったので」 「ええ……。昨は親戚の皆さんが勢見えてね。私でお茶しからお膳の支度まで全部やったものだから、ちょっと持病の腰がちゃって。でも丈夫よ、嫁のあなたに無理をさせてまで伝わせるわけにはいかないものね。私が倒れれば済む話なんだから」

これだ。 この、自分が被害者の頂点にち、相に罪悪を植え付けることによって完全に支配する話法。 「母さん、紗都子も反省して駆けつけたんだからさ。

ほら、紗都子、あとはおが代わってやれよ。昼飯のそうめんの準備と、昨の夜の皿洗いがまだ残ってるんだろ?」

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