"台所の生贄、義母の黒革手帳" 第2話
だが、その平穏は、も持たなかった。
翌朝の午、枕元に置いたスマートフォンがけたたましく震えた。 画面に表示されたのは『達也』の文字だった。
「……もしもし?」 『あ、紗都子? 起きてた? 悪いんだけどさ、凍庫のどこに鯛の切り入ってるかってる?』 受話器越しの達也の声は、妙に苛っていた。 「鯛? らないわよ。私、今はお邪魔してないんだから」 『いや、おが実の凍庫理しただろ? 母さんが見当たらないって朝から探しててさ。あと、親戚が昼過ぎに来るらしいんだけど、野菜って何分買えばいいわけ? あとさ、客のシーツって押入れの袋だっけ? 母さんが腰痛いって言ってるのに、誰も所がわからなくてさ』 「そんなの、お義母さんに聞くか、美穂さんに……」 『美穂姉ちゃんは今、子供たち連れて民プールってるよ。母さん、朝からでずっと台所き回っててさ、さっきから溜息ばかりついてるんだよ。お、本当に来なくてよかったわけ?』
胸の奥がえ切っていくのをじた。 来なくていいと言ったのは、義母だ。それを承諾し、チケットの配もで済ませててったのは達也だ。なぜ私が、見らぬ実の凍庫の底にある魚の所まで、百キロ以れた自宅のベッドのから指示しなければならないのか。
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昼過ぎには、達也から文のメッセージが届いた。 『母さん、朝からずっとちっぱなしでいてる。が痛いって湿布貼ってた』
午には、義姉の美穂からメッセージが届いた。 『紗都子さん、お仕事変なのはわかるけど、くらい顔せなかったの? お母さんも「来なくていい」とは言ったけど、あれは社交辞令っていうか、気遣いじゃない。本気にしてででのんびりしてるなんて、ちょっとびっくりしちゃった。お母さん、親戚への体裁が悪くて、さっきから所のに言い訳ばかりしてるわよ』
そして夜の、スマートフォンが震え、達也からの文が画面を埋め尽くした。
『母さんが完全に疲れ切って寝込んじゃったよ。親戚の伯父さんたちにも「嫁さんは仕事が忙しいから来ないのか」って嫌を言われて、俺も親父もすごく気まずかった。せっかくのお盆なのに、のの空気が最悪で、みんな全然落ち着かなかったよ。母さんはおのことをって言ったのに、それを額面通りに受け取って本当に来ないなんて、正直常識を疑うよ。もうし、母さんのことも考えてほしかった』
スマホの画面を見つめたまま、私は指先を震わせていた。
もうし、母さんのことも考えてほしかった――。
その文字が、鋭い針のように網膜に突き刺さる。
過、私がこの実で何を捧げてきたのか、達也は度でもその目で直したことがあっただろうか。
結婚した最初のから、私の帰省はお盆の休暇などではなかった。 京駅から満席の幹線に揺られ、義実の玄関をくぐった瞬から、私の「業務」は始まった。玄関で靴を脱ぐ暇もなく、「あ、紗都子さん、ちょうどいいところに。悪いんだけど、今すぐ駅のスーパーでビールケースと、刺用のサクと、ぷらの油を買ってきてくれない?」と義母にメモを渡される。
荷物を客に置くもなくをらせ、汗だくになって戻ってくれば、今度はエプロンを引っ張りして台所につ。 まずやるべきは、カビのえかけたタッパーが押し込まれた義実の蔵庫のを確認し、何が腐っていて何が使えるかを把握することだった。義母は料理を作るのが好きだと言いながら、際が致命に悪く、親戚が以も集まる本膳の準備となると完全にパニックに陥る。
結果として、ごしらえから付け、盛り付け、配膳、そして終わりの見えない皿洗いまで、すべての労働が私の両肩にのしかかった。
義父の修造は、定退職してからというもの、座卓の定位置から歩もかない。「おい、茶」「酒が切れた」「が寒い」とく鳴るだけで、元に運ばれてきた湯呑みにしでも茶渋がついていれば舌打ちをした。
義姉の美穂は、で分の距にんでいながら、夫との子供を引き連れて「実でお客さん」