"18年消えていた母の第一声は「手取りいくら?」" 第4話
「あんたを、怖がらせたくなかったんだよ」 祖母の目に、うっすらと涙が滲んでいた。 「美智子がどんな顔をして戻ってくるか、分からなかった。もしも本当に、あんたに詫びを入れて、母親としてやり直したいって言うなら……私がに入って邪魔をしちゃいけないともった。でも、やっぱりあの子は……おだったのかい」
祖母の掠れた声に、い絶望が滲んでいた。 実の娘に対する、諦めと。 そののさに触れて、私は祖母を責めた自分の浅ましさを恥じた。
「おばあちゃん、昔のこと、教えて」 私はを乗りした。 「お父さんがんだあと、何があったの? お母さんは本当に、私を育てる余裕がなくて京にったの? どうして、度も顔を見せなかったの?」
祖母は目を閉じ、い過を繰り寄せるようにしばらく沈黙した。 柱計のカチ、カチという規則正しい音だけが部を満たす。
「康夫さんがくなった……確かに、うちには借があったよ。康夫さんの事業の失敗のね。美智子はまだで、音はまだ学だった。あのの美智子が取り乱して、途方に暮れていたのは本当だよ」
祖母はゆっくりと目をけた。
「私はね、美智子に言ったんだよ。『音は私が責任を持ってここで育てるから、あんたは京で働いて、仕送りなんていらないから、に度でもいいから音の顔を見に来てやりなさい』って。
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美智子も、泣きながら頷いていたんだ」
「じゃあ、どうして……」
「最初の数ヶはね、連絡があったんだよ。音、あんたは覚えてないかもしれないけれど」
祖母はよっこらしょとい腰をげ、居の隅にある仏壇へと歩いていった。 線のりがかすかに漂う、祖母は仏壇のの引きしにを伸ばした。 普段は触ることのない、番奥の引きし。 そこから取りされたのは、角が擦り切れて錆の浮いた、角い缶だった。 かつて贈答用のクッキーが入っていたような、古い缶。
祖母はその缶を両で抱え、私のの座卓に静かに置いた。
「これをけてごらん」
パチン、と乾いた音をてて缶の蓋をけた。
には、輪ゴムで束ねられた類が入っていた。 茶く変した輪ゴムは、指で触れるとパキッと音をてて千切れた。 番にあったのは、私の学の連絡帳と、運会のプログラム。 そしてそのからてきたのは――見覚えのない、い封筒だった。
消印の付は、平成の。 私が歳、母親がをてからちょうど半の付だった。 差の欄には、ボールペンのしがりの文字で、『美智子』とかれている。
指先が震えた。 息を呑みながら、からい便箋を取りした。
『お母さんへ。京の仕事もしずつ慣れてきました。音は元気に学へっていますか。
ご飯はちゃんとべていますか。寂しいいをさせて本当にごめんなさい。く活を定させて、音を迎えにきます。それまでどうかよろしくお願いします』
乱暴に折られた便箋のに、もう枚、さな片が挟まれていた。 それは、キャラクターが印刷された販のバースデーカードだった。 私の歳の誕の付。 『かのんちゃんへ 8さいのおたんじょうびおめでとう つぎのたんじょうびは、いっしょにおいわいしようね ママより』
胸の奥を、鈍器で殴られたような衝撃がった。
「これ……」
「あんたの誕に届いたんだよ」 祖母が静かに言った。 「あの頃のあんたは、毎玄関に座り込んで母親を待ってた。このを読んで聞かせたら、あんた、カードを抱きしめて泣きながら寝てねぇ……。でも、さかったから、忘れちまったんだろうね」
缶のには、もう枚、っぺらな受取証が入っていた。 郵便為替の受取票。 額の欄には、それぞれ『万円』『千円』と印字されていた。 付はのあと、ヶ続けて送られてきたものだった。
母親は。 あのは、最初から私を捨てるつもりだったわけではなかった。
京へってすぐの頃、母親は確かに私のことを気にかけ、迎えに来ようとし、微々たる額であってもおを送ってきていたのだ。 記憶のの『酷に私を捨てた母親』という輪郭が、音をてて歪み始めた。