"「お前のために断ってやった」母の仕送りを7年捨て続けた夫" 第16話
おにわなかったら、炒め物にでもしてべてね。 お父さんも、元気です』
フタをけると、ツンとした乳酸発酵の酸と、青々としたりが部いっぱいに広がった。 あののでは「臭い」と罵られ、隠すようにべるしかなかった、母の野沢菜。
私は箸も使わず、指先で本つまんで、そのままに運んだ。
シャキッ、と気のいい音が部に響く。
……あ。
噛み締めた瞬、じわりと塩気が舌のに広がった。 確かに、昔べたものよりしだけ塩辛い。 母が目分量で塩を振りながら、「これでいいかしら」と樽を覗き込んでいた姿が目に浮かぶ。
の端からあふれそうになる旨を噛み締めながら、私はキッチンカウンターに置いてあったスマートフォンをに取った。
縮ダイヤルを押す。 コール音は、回しか鳴らなかった。
『もしもし、真帆?』
弾んだ母の声。
「お母さん、荷物届いたよ」
『あ、届いた? かったわねえ。……どう? 、丈夫?』
話の向こうで、母がまるでテストの結果を待つ子どものように、息を潜めているのがわかる。
私はベランダの窓をけた。 澄み切ったの青空が、どこまでもく広がっている。 ベランダを吹き抜けるを頬に受けながら、私は喉の奥から込みげるいものを堪え、声をして笑った。
「うん。……お母さんの言う通り、今の、ちょっとだけ塩っぱいよ」
広告
『あらあ、やっぱり? お父さんにもそう言われたのよ。「お、塩を入れすぎたんじゃないか」って。ごめんねえ』
受話器の向こうで、母が照れくさそうに笑い、ろで父の「だから言っただろう」というぼやきがさく聞こえてきた。
そののない笑い声を聞きながら、私の目から、ぽろりと涙が筋こぼれ落ちた。 けれど、それはもう悔しさの涙でも、しさの涙でもなかった。
以の私は、結婚したら何かを諦めたり、自分の過をしずつ切り捨てたりするのが「になること」なのだとい込んでいた。 妻になるということは、相の価値観に従い、波をてないように自分の根っこを削っていくことなのだと。
でも、違った。
誰かの妻になるために、誰かの娘であることをやめる必なんて、最初からどこにもなかったのだ。
「ううん、お母さん。すごく美しいよ」
私は溢れてくる涙をの甲で拭いながら、しっかりと、言葉を紡いだ。
「あったかいご飯炊いて、全部べるから。……来も、また送ってね」
『ええ、もちろんよ。いくらでも送るわ』
受話器の向こうの母の笑い声が、陽だまりの部にいつまでも温かく響いていた。