"無職と笑う夫が盗んだ、私のデザイン" 第17話
私の配慮を、自分への『従』だと勘違いしたのよ」
夫は息を呑み、言葉を失った。
「私が歩引くたびに、あなたはで踏み込んできた。最には私の名まで奪おうとした。……あなたが踏みにじったのは、私の仕事だけじゃないわ。あなたをいやろうとしていた、私のそのものよ」
夫の顔が歪んだ。 両で顔を覆い、階段の途で肩を震わせる。
「……怖かったんだよ」
掠れた、子供のような声が漏れた。
「君が……美穂が、自分よりにくのが怖かった。で絵を描いてるおが、会社の板を背負って必にをげてる俺より稼ぐようになったら……俺には何つ残らないような気がしたんだ。俺がこのの『黒柱』でいられなくなるのが、たまらなく怖かったんだよ……」
それが、この男のすべてのだったのだ。
男としてのプライド。 父としての虚栄。 妻をに見ることでしか維持できない、あまりにも脆く、浅ましい自尊。
そのちっぽけな恐怖のために、私のは「パジャマの落き」として消費されかけたのだ。
私はく息を吸い込み、たい空気を胸いっぱいに満たした。
「あなたの価値はね、私を蔑むことで証するものじゃなかったのよ」
夫は顔を覆ったまま、何も答えなかった。
「元気でね、也さん」
私は初めて、穏やかにその名を呼んだ。 憎しみも、軽蔑も、すべて脱ぎ捨てた、赤のに向けた会釈をつ残して。
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階段をりる私の背に、呼び止める声は度と届かなかった。
季節は巡り、のがを包み込む頃。
京・座の央通りに面した、級品セレクトショップのに、私はっていた。
磨きげられたガラスのショーケース。 柔らかなスポットライトが注がれるメインの特設什器に、美しく列された商品群があった。
『季の卓』。
ナカジマ・フードホールディングスが、満を持して全国展をスタートさせたブランドの第弾。 無添加の汁、季節の炊き込みご飯の素、瓶詰めの調料。
に吸い付くようなマットなの質。 控えめながら気品のある箔押しのロゴタイプ。 本の季の移ろいを表現した、繊細な幾何学パターンのパッケージ。
通りかかった若い女性の連れが、を止めた。
「見て、これすごくい」 「本当だ。いがすっごく品。お母さんへのプレゼントにしようかな」
が箱をに取り、嬉しそうにレジへ向かっていく。 その景を、私はしれた所から静かに見つめていた。
指先が微かに震えた。 涙はなかった。 ただ、胸の奥底から、温かいのような誇りが湧きがってくるのをじていた。
商品の箱をつ、そっと裏返してみる。 成分表示や賞期限が並ぶ法定表記の最部。 厳格なデザインレギュレーションに基づき、端正な体でさく刻まれたの文字列。
Design: 佐藤美穂
私の名だった。
誰のにも隠されていない。 誰の柄にもすり替えられていない。 私が何夜も徹夜をね、ミリ単位の線を引き、自分の性と技術のすべてを注ぎ込んでみした証。
「素らしい佇まいですね、美穂さん」
背から、落ち着いた声がかけられた。 振り返ると、島部と直子さんが並んでっていた。
島部は満そうに棚を眺め、私に向き直ると、胸ポケットからしい名刺入れを取りした。
「初の売れきは、が社の予測を割以回っています。役員会でも『パッケージの持つ説得力が、商品の価値を完全に引きげた』と絶賛でしたよ」
「ありがとうございます、島様。最まで私のデザインを信じてくださって」
私がくをげると、島部は柔らかく首を横に振った。
「信じたのではありません。あなたの仕事が、数字と結果で証したのです。……さて、美穂さん。からの第弾、ギフトセットのトータルディレクションも、ぜひあなたにお願いしたい。仕様はすでにご用してあります」
「んで、お引き受けいたします」
隣で直子さんが、私の肩をポンと叩いて悪戯っぽく笑った。
「もう『美穂ちゃん』なんて呼べないわね。派な売れっ子デザイナーじゃない」
「やめてください、直子さん」
で顔を見わせ、声をげて笑った。