"無職と笑う夫が盗んだ、私のデザイン" 第15話
私は戸田の賃貸マンションに戻ることはなかった。 直子さんの紹介で、代々原にあるさなワンルームを借りた。 敷と礼を払い、最限の作業机とベッドを搬入した夜、私はぶりに何の物音にも怯えずに眠りについた。
役所へき、民票の閲覧制限の続きも済ませた。 夫や義父母が、私のしい所を辿ることは法に能になった。
戸田の部に残してきた私の荷物は、弁護士とち会いのもと、専の引越し業者がですべて運びした。 その作業の、夫はずっとリビングの隅のパイプ子に縮こまり、爪を噛みながらを見つめていたという。
「……まるで抜け殻のようでしたよ」
ち会いを終えた弁護士が、事務所で苦笑いを浮かべていた。
「部のは荒れ放題でした。コンビニの空き容器とビールの空き缶が散乱して、キッチンのシンクにはカビのえた皿が積みになっていました。費の督促状も何通か届いていたようです」
その景が、目に浮かぶようだった。
、私が毎当たりのように回していた常。 トイレットペーパーの補充、シーツの洗濯、ワイシャツのアイロンがけ、呂の垢取り。 夫が「パジャマで遊んでいるだけ」と侮蔑していた私のは、夫がらしい体面を保つための、無償の台だったのだ。
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その台を自らので破壊した男が、常のみに押し潰されるのは、あまりにも当然の帰結だった。
義実の親族たちも、すでに夫から潮が引くようにれていた。 還暦の宴席で企業の役から盗作を告発されたという噂は、瞬くに親戚に広まった。 世体を何よりんじる義父は激し、夫からの着信を着信拒否にしたと聞いた。
義母は腰の痛みを理由に「面倒を見に来い」と夫に話をかけ続けているらしいが、取りを幅に削られた今の夫に、母親を介護施設に入れる余裕などあるはずもなかった。
誰も代わりにはなってくれない。 誰の成果も、もう掠め取ることはできない。 夫は自らが撒いた現実の種を、たったで刈り取らなければならなくなっていた。
の初旬。 たいがる夕暮れだった。
直子さんのデザイン事務所で『季の卓』のリニューアル打ちわせを終え、ビルのエントランスをた瞬だった。
「……美穂」
傘のから、擦れた声がした。
植え込みの脇に、ずぶ濡れの男がっていた。 骨の曲がったビニール傘を差したその姿は、かつて仕ての良いスーツを着て威張り散らしていた夫とは、とても同じには見えなかった。
ヨレヨレの作業用ジャンパー。 のねたスニーカー。 頬はこけ、無精髭が揃いに伸びていた。
息が止まりそうになった。 だが、恐怖ではなかった。 ただ、どこまでもれで、汚れたものを見るようなたさが、胸の奥を満たしていった。
「……どうやってここを」
「直子さんの事務所の所は、昔名刺で見たことがあったから……仕事が終わってから、ずっと待ってたんだ」
夫は傘を放りしそうになりながら、私に向かって歩踏みした。 そのは刻みに震え、指先は荒れて黒ずんでいた。
「美穂、頼むよ。回だけでいいから、話を聞いてくれ」
「話すことなんて何もないわ。すべて弁護士を通じてと言ったはずよ」
「そんなこと言うなよ!」
夫はすがるようにを伸ばしてきた。 私は無言で歩、距を取った。 空を切った夫のが、みじめに宙を彷徨う。
「俺、もう限界なんだよ……」
夫の目から、粒の涙が溢れた。 と涙が混ざりい、青ざめた頬を伝い落ちていく。
「倉庫の仕事なんて、毎い荷物を運ぶだけで、誰からも謝されない。司は俺よりの契約社員で、毎のように鳴られるんだ。取りだっての半分くだ。賃も払えないし、おふくろからは毎晩のように『を送れ』『施設代をせ』って泣きつかれる……」
夫は端に崩れ落ちるように膝をついた。 通が怪訝な顔でこちらを振り返るが、夫にはもう、あれほど気にしていた『世体』を取り繕う余裕すらなかった。
「おは復讐を果たしただろ?! 俺をこんな目に遭わせて、満しただろ?! もういいじゃないか! 俺が悪かった! から謝るよ! だから戻ってきてくれ!」