"無職と笑う夫が盗んだ、私のデザイン" 第11話
どこかぎこちなく、ひどく疲れ切った、しかし柔らかな笑みが浮かんでいた。
「夕飯、作ったんだ。お、ここ数まともにべてないだろ。座ってくれよ」
臓の奥が、たく凝固していく。
、私が発で寝込んでいたですら「俺の飯はどうするんだ」と鳴り散らしていただ。 包丁を握ったことなど、数えるほどしかない。
私は何も言わず、ダイニングチェアの端に腰をろした。
夫は私のに湯呑みを置き、自分も向かいに座った。 をわせ、「いただきます」とさく言ってから、私の顔を伺うように線を投げてくる。
「……美穂」
夫の声は、驚くほど湿り気を帯びていた。
「俺、反省したんだよ。この、ずっとで考えてた」
箸を持ったまま、夫はくをげた。
「おの仕事を、見すような言い方ばかりして本当に悪かった。親戚ので恥をかかせたことも、全部俺の見栄だ。おが毎どれだけ真剣にパソコンに向かってたか……分かってたはずなのに、認めるのが怖かったんだよ」
芝居がかった台ではなかった。 声は微かに震え、目尻には涙さえ浮かんでいた。
「会社で、同期が次々に課になってさ。俺、焦ってたんだ。営業企画に移ってから目った成果もせなくて、からのプレッシャーに押し潰されそうだった。そんな、おの部で『季の卓』のラフを見て……あまりにも綺麗で、完成されてて、魔が差したんだ」
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夫は両で顔を覆い、肩を落とした。
「おを傷つけるつもりはなかった。ただ、夫婦で掴んだチャンスにしたかったんだ。……許してくれとは言わない。でも、やり直したいんだ。俺たちのなんだから」
の私なら、この涙に騙されていたかもしれない。 「このも苦しかったんだ」と自分に言い聞かせ、許してしまっていたかもしれない。
けれど、私の目は、夫のスーツのジャケットに吸い寄せられていた。 背もたれに掛けられた着の内ポケットから、つ折りにされたいA4用の端が、自然に覗いていた。
「……ケーキ、べるだろ。今、箱からすよ」
夫は努めてるい声を作り、ちがって箱の紐を解いた。 美しいに包まれた、真っなクリームと真っ赤な苺。
夫はケーキ皿を私のに置くと、をエプロンで拭き、ポケットからその用をすっと引き抜いた。
丁寧にしわを伸ばし、私の目のに滑らせる。 その顔には、懇願するような、れみを誘う笑みが張り付いていた。
「美穂。これ、枚だけサインしてくれないか」
テーブルのに置かれた類の表題。
『著作権利用許諾及び権利譲渡承諾』。
喉の奥が、ぎゅっと締め付けられた。
私はフォークを置き、類に線を落とした。 然とした朝体で印字された条文を、ずつ、指でなぞるように追っていく。
、甲(佐藤美穂)は乙(株式会社タイヨーフーズおよび佐藤也)に対し、本件対象著作物(『季の卓』式)に関し、半の付をもって無償かつ包括な独占利用権を許諾していたことを確認する。
、甲は著作者格権を使せず、社への発表名義を乙の指定する方針(営業企画部原案)に従うものとする。
、万本件デザインに関し第者とので紛争または損害賠償請求がじた、その切の責任および費用は甲が負担するものとする。
付の欄には、半の初の付がすでに印字されていた。
指先が、りで氷のようにたくなっていく。
「……これ、どういうこと?」
私の乾いた問いに、夫はを乗りし、で畳み掛けてきた。
「の朝から、社内でコンプライアンス委員会がかれるんだ。田部だけじゃない、担当役員と顧問弁護士も同席する。そこでこの類をせば、全部片がつくんだよ」
「片がつく……?」
「ああ!『妻とは半から業務委託の約束があり、類の作成が現の忙で遅れていただけでした』って説できる! 島部の抗議だって、『内での続きの備による誤解』として処理できるんだ! 会社も穏便に済ませたがってるんだよ、社内スキャンダルは隠したいんだから!」
夫の瞳の奥に、ギラギラとした執着が蘇っていた。
さっきまでの殊勝な反省の表など、どこにも残っていない。