"婚約破棄を告げた瞬間、義父母から謎の80万円を請求された" 第8話
「くの?」
「く」
私はグラスに残ったぬるいをみ干した。
「逃げてても終わらない。全部、黒つけてくる」
「オッケー。何かあったらすぐ話しなさいよ。録音アプリ、バックグラウンドで起しておくの忘れないでね」
「うん。ありがとう」
私は席をち、鉄の改札へと向かった。
神田駅の。 たいが吹き抜けるガードで、健介はグレーのトレンチコートの襟をててっていた。 には、見覚えのある紺の袋を提げている。 先、座のブライダルリングで緒に受け取った、結婚指輪のブランドの袋だった。
私の姿を見つけると、健介はあからさまにホッとした表を浮かべ、に駆け寄ってきた。
「結菜! よかった……連絡取れないから、本当にどうなるかと……」
を伸ばそうとする健介から、私は半歩、を引いた。 健介のが空を切る。
「……所、変えよう。通りがいから」
駅のチェーン系カフェの、番奥のボックス席。 健介はホットコーヒーをふたつ頼み、向かいって座るなり、袋からさなジュエリーボックスを取りしてテーブルのに置いた。
「結菜、昨は俺も取り乱して悪かった。言葉がすぎたよ」
健介は両をわせ、反省したような顔を作ってみせた。
「母さんもさ、血圧はがったけど、今は落ち着いてる。父さんも、結菜がちゃんと謝りに来てくれるなら、昨のことはに流すって言ってくれてるんだ」
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に流す。 まるで、非がすべて私にあるかのような言いだった。
私は机のの指輪の箱に線を落としたまま、何も答えなかった。 健介は私の沈黙をどう解釈したのか、を乗りして声を弾ませた。
「だからさ、改めて取り直して、役所こう? 遅れただけだし、誰にも迷惑かからないだろ。な?」
「……訓のことは?」
私のい声に、健介の笑みがピクッと凍りついた。
「え?」
「お料を全部お義母さんに預けること。実の父にのことを話さないこと。あれ、どうするの?」
健介は周囲をチラッと窺い、声を潜めた。
「あれはさ……形だけでいいんだよ」
「形だけ?」
「そう。とりあえず入籍して、母さんには『結菜から通帳預かりました』って俺が適当に嘘をついておく。居に入っちゃえば、母さんが毎監に来るわけじゃないんだからさ。活費の座は、裏で結菜に渡すよ。それでいいだろ?」
……は?
私はわず、健介の顔をまじまじと見つめてしまった。
嘘をつく? 親に嘘をついて、取り繕って、そのしのぎで籍を入れようというの?
「じゃあ、父のことは?」
「え?」
「お義父さんは、私の父が作業着で来るのが恥ずかしいって言った。お義母さんは、母親がいないからしつけがなってないって言った。それも、形だけだからしろって言うの?」
健介はあからさまに苛ったように、ふうとい溜め息をついた。
「結菜さ、なんでそんなに昔のこと蒸し返すわけ?」
「昔じゃない、昨の夜の話だよ」
「同じだよ! 親の世代の価値観なんて、今さら変えられるわけないだろ!? 悪気はないんだって何回言えば分かるんだよ。悪があって言ってるんじゃないなら、こっちがになって聞き流せば済む話じゃないか!」
コーヒーカップの縁を持つ健介の指が、イライラと刻みに揺れていた。
このは、何も分かっていない。 悪気がないから傷つかないのではない。 悪気がないまま、無自覚にを踏みにじるだからこそ、危険なのだ。
そして、その踏みにじる側にっているのが自分の親だと分かっていても、このは絶対に親と戦う気がない。 私の尊厳を差しすことでしか、庭の平を維持できないのだ。
「健介、ひとつ質問していい?」
「……何だよ」
「もし私たちが結婚して、子どもがまれたとするよね」
「……は? 今そんな話……」
「聞いて。もし子どもが何か失敗した、お義母さんが『片親の母親に育てられたから、しつけができないのね』って子どもので私を責めたら、あなたはどうするの?」
健介は眉をひそめ、吐き捨てるように言った。
「なんでそんな極端な話をするんだよ!」
「極端じゃない。昨起きたことの延線だよ。答えて。あなたは私の方をして、お義母さんに『そんな言い方はやめろ』って鳴ってくれる?」