"車椅子の看板娘と一億円の代償" 第16話
「誰も助けに来ねえなら……今ここで俺がおの命を奪ったところで、誰も文句は言わねえし、何の波もたねえんだよ」
俺が銃をさらにく眉に押し込むと、神宮は完全に精神の箍がれたように、けない鳴をげて両を激しく振り回した。
「ひぃぃっ! わ、分かった! 分かったからぁッ! 俺が悪かった! 俺が悪かったから、それだけは勘弁してくれ! 命だけは……命だけは助けてくれぇぇッ!」
プライドも虚勢もすべてかなぐり捨てた、無様な命乞いだった。
「……命だけは助けてやる。その代わり、言った条件は完璧に呑むということだな?」
「呑む! 全部呑むからァッ!」
神宮の絶叫が途切れると、周囲はこれ以ないほどのい静寂に包まれた。
俺は銃の全装置を戻し、ゆっくりと懐へと収めた。そして、ひとつのきな落としがついたことに、いため息をふぅーっと空へと吐きしたのだった。
あの黒龍会本での激突から、ヶのが流れていた。
季節はへと移り変わり、商のアーケードには末の売りしを告げる鮮やかなモールや提灯が飾られていた。吹き抜けるはたかったが、通りをき交う々の表はるく、かつての活気が嘘のように戻っていた。
簾をくぐると、懐かしい鰹と煮干しの汁のりが、温かな湯気とともに俺を優しく包み込んだ。
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「いらっしゃい!」
厨から響いたのは、かつての張りと艶を取り戻した、ナツさんの元気いっぱいの声だった。
内には数組の常連客が座り、美そうにうどんをすすっている。客席の隅では、以の鬱な空気を吹きばすように、温かな笑い声が溢れていた。
俺は空いていたカウンター席に腰をろした。ナツさんが湯気のつお茶を持って、りで駆け寄ってくる。
「あ、かず君! いらっしゃい!」
「ナツさん、こんにちは」
ナツさんはエプロンでを拭きながら、周囲に聞こえないようにし声を潜め、呆れたような、しかしどこかれやかな顔で話しかけてきた。
「ちょっと、かず君、聞いてよ。あの神宮蓮っていう男……あれから毎毎、うちと蒼井の座に、恐ろしい額の慰謝料を振り込んできているのよ。これまでに計で、もう億円以よ? 億よ!?」
ナツさんは目を丸くして両を広げてみせた。
「弁護士さんを通して『もう分ですから、これ以は受け取れません』って断りの連絡を入れているのに、向こうは『まだまだ財産はあるから、支払わせてください!』って泣きついてくるのよ。体、どんなの吹き回しかしらねえ? 私たちには、あの神宮蓮がヤクザの組から破されて、から完全に消えったって聞いただけで、分すぎるくらいだったのにさ」
その話を聞いて、俺はわず吹きしそうになるのを堪え、温かいお茶をすすった。
「ああ……それはですね、ナツさん。俺たち王会が、今でもきっちり神宮のケツを叩き続けているからですよ。あいつが今まで悪どいシノギで溜め込んできた裏は、まだまだこんなもんじゃありませんからね。ぐるみ剥がれるまで、きっちり吐きさせますよ」
「まあ……! すごいわねえ、ヤクザの幹部って……」
ナツさんはしたようにため息をついたが、すぐに真面目な顔に戻って首を横に振った。
「でもね、かず君。うちの取り分としては、蒼井の今の治療費と活費で、ほんのしいただければそれで分なの。だからね、残りの途方もないは、全部、犯罪被害者の支援施設や、きな病院の児病棟に全額寄付しちゃっているのよ」
「えっ……寄付ですか?」
俺が驚いて目を瞬くと、ナツさんは誇らしげに胸を張って微笑んだ。
「そうよ。あんな汚れたお、私たちが独り占めして抱え込んでいたら、バチが当たっちゃうもの。誰かの役にててもらった方が、ずっと気持ちがいいわ」
「……いやあ、本当にががりませんよ、ナツさんには」
俺はの底から敬し、ナツさんに向かって々とをげた。自分たちを獄の底に突き落とした元凶から毟り取ったを、私利私欲のためではなく、同じように苦しむ者のために役てる。
その魂の潔さに、裏社会できる自分が恥ずかしくなるほどだった。