"車椅子の看板娘と一億円の代償" 第5話
本当はね」
その言葉に、俺はわず目を見張り、ぽかんとをけた。
「え? お、本当ですか?」
「本当よ、本当。かず兄ちゃんが来ると、いつも『かっこいいお兄ちゃんが来た!』ってびしてたんだから」
ナツさんは俺をさせるように、いたずらっぽくニヤッと微笑んでみせた。その温かな笑顔に背を押され、俺はを決した。胸の奥に渦巻いていた疑問を、逃げずにぶつける覚悟を決める。
俺は姿勢を正し、い声で尋ねた。
「……蒼井ちゃんを襲った奴について、何か当たりはありませんか?」
「え……? こ、当たり……?」
ナツさんの笑顔がぴたりと止まり、その瞳に微かな揺がった。俺は髪を入れずに言葉をねた。
「ええ、何でもいいんです。どんな些細なことでも構いません。さっき、まだ警察に犯が捕まっていないと言っていましたよね。……半も経っているのに、何の証拠もがかりも掴めていないなんて、普通に考えて結構おかしいです。もし通り魔の犯だとしても、今の代、防犯カメラもあれば聞き込みもある。それなのに全く取りが掴めないなんて、相は相当な慣れか、あるいは組織な裏があるとうんです」
俺の淀みのない、かつ裏社会の匂いを微かに含んだ鋭い分析に、ナツさんは珍しくごもり、線を宙に彷徨わせた。
内を再び苦しい静寂が支配する。
広告
換気扇の回る音だけがカタカタと響く、ナツさんは組んだ両指をく握りしめ、何かを激しく葛藤している様子だった。
そして、い逡巡の末、彼女は覚悟を決めたように顔をげた。その双眸には、胸の奥底に秘め続けてきた恐怖と悔のが宿っていた。
「……犯が誰なのかは、分からないわ。これは、実際に被害を受けた蒼井自が『暗くて顔は見えなかった』って言っていたから、確かな事実だとうの」
ナツさんはそこで度言葉を切り、唇を震わせた。
「でもね……私には、し当たりがあるのよ。あの……もしかしたら、そうじゃないかっていう……」
「もしかしたら……?」
俺がを乗りして促すと、ナツさんは周囲を警戒するように声を段とく落とした。
「そうなの。実は……うちのがあるこの商って、しばらくから、とあるヤクザに何度も攻めてられていてね」
「ヤクザ……」
俺の眉根がわずかにいた。裏社会という単語がた瞬、俺の全の神経が研ぎ澄まされていく。
「まあ、攻められるって言っても、を寄越せだの、をく放してち退けだの、言うことを聞かないと商売ができなくなるぞって脅してくるばかりなんだけど……」
ナツさんは力なく首を振った。
「うちさ、この商のでは番の古株なのね。私のおじいちゃんの世代からをやっているから、もうくらい、ずっとここでを守り続けているの。
つまり、良くも悪くも、この商のでリーダーな役割になっちゃっているのよ」
古くから続く老舗の主であり、商の顔。周りの主たちからも信頼されているナツさんのが、容易に像できた。
「だから……番、そのヤクザたちの矢面にって、相をすることがくて……」
ナツさんはそこまで言うと、胸を締め付けられたように言葉を詰まらせた。そのきな瞳に、粒の涙がみるみると溢れしてくる。
しかし、彼女は喉を鳴らして唾をみ込み、ふーっと度く息を吸うと、震える唇をいて再び話し始めた。
「私……に、彼らに度、本気で鳴ったことがあるの。『迷惑だから、もう度と来ないで!』って。『あなたたちに払うも、渡すもありません!』って、から追いしたのよ……。そしたら……それから、本当にピタッと来なくなったんだけど……代わりに、蒼井が……」
ナツさんはそこまで気に吐きすと、張り詰めていたの糸が完全に千切れてしまったのか、両で顔を覆い、ボロボロと粒の涙を流し始めた。
「うっ……ううっ……! 蒼井が……あんな目に……!」
嗚咽が、狭い内に響き渡る。
夫をくにくしてからというもの、女つで必に簾を守り、最の娘を育てげてきたナツさん。その誇りき母親が、暴力団の理尽な魔のによって切なものを踏みにじられたのだ。
どれほど恐ろしかったことだろう。