"車椅子の看板娘と一億円の代償" 第4話
テーブルのにトンと置かれたそのコップには、滴がびっしりとついている。
「本当にごめんね、かず君。うちの暗い事に巻き込んじゃって……。うどん、べに来てくれたんだよね? いいよ、何でも作るから。好きなの頼んじゃってちょうだい」
ナツさんはエプロンでを拭きながら、努めて気丈に笑ってみせた。だが、その瞳の奥には拭いれない愁が漂っている。彼女はカウンターの向こうに線を漂わせながら、独り言のように言葉を漏らした。
「実はさ……最、常連さんたちも、うちの様子を気にしてか、なかなか来てくれなくなっちゃってね。悪いに絡まれているうちに関わるのが怖いのか……それとも、蒼井のことがあって、変に気を使って来づらいのか……。よく分からないけれど、あまりいい気分ではないわね。正直にこんなこと、客商売のが言ってしまっていいのか分からないんだけど……」
ナツさんはそこで言葉を切り、寂しげに内の空席を見つめた。
「……腫れ物に触るように巻きにされるくらいなら、むしろ普通に来てほしいのよ」
その絞りすような本音に、俺は胸をく打たれた。
世の同や配慮というものは、に当事者をひどく傷つけ、孤させる刃となる。誰も悪気はないのだろう。痛ましい事件をり、どんな顔をして声を掛ければいいのか分からず、ただ距を置く。
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だが、残された側にとっては、常を奪われたに、かつてあったの温もりまでもが急速にえ切っていくような恐怖をわうことになるのだ。
俺はテーブルのに置かれたのコップを両で包み込み、ナツさんの顔をまっすぐに見つめ返した。
「いえ、俺は別に何もっていませんよ。……でも、そうですよね。その『気遣い』が、かえって辛いっていうこともありますもんね」
俺の言葉を聞いたナツさんは、目を見き、そしてく頷いた。
「そうなのよ……! 第者だからこそ、慮せずにガツガツ来てほしいこともあるわ。本当に……」
そう語る主の表には、嘘偽りのない実が滲みていた。閑古鳥の鳴く内で、たったひとりで娘の介護と活のを抱え込んできた々のみが、嫌というほど胸に染み入ってくる。
ナツさんはつきく息を吸い込むと、厨へと踵を返した。
「よし、腕によりをかけて作るからね。ちょっと待ってて!」
厨から、カチャカチャと丼が擦れう音と、沸騰した湯が煮えつ音が聞こえてくる。普段の賑やかさはないものの、ナツさんがうどんを茹でる所作には、培ってきた職としての魂が宿っていた。
数分、湯気を濛々とちらせた丼が運ばれてきた。
「はい、お待たせ、かず君。これ、いつものキツネうどんね」
目のに置かれた丼には、琥珀に澄んだ汁がたっぷりと注がれ、その央にはふっくらと煮含められた巨な油揚げが鎮座していた。刻みネギの鮮やかな緑が美しく散らされている。
俺は割り箸を割り、をわせた。
「はい、ありがとうございます。いただきます」
箸で太めのうどんを持ちげ、気にすする。ずるずるっ、とよい音とともに、節の効いた力い汁の旨と、麦の甘みがいっぱいに広がった。昔と何ひとつ変わらない、優しく、どこか懐かしいだった。々の油揚げに歯をてると、甘辛い煮汁がじゅわっと染みしてくる。
ナツさんはカウンターの端に寄りかかり、俺が丼を抱えてでうどんをすする様子を、久しぶりに見る穏やかな笑みを浮かべて嬉しそうに見つめていた。その笑顔を見ているうちに、俺のでひとつのい衝が鎌首をもたげてきた。
このを、このを、そしてあの傷ついた女を、このまま絶望の底に置きりにしていいはずがない。
俺はうどんを半分ほど平らげ、箸を丼の縁に置いた。そして、ナツさんに向かってそっとをいた。
「……すいません。俺、こんなこと聞いていいか分からないんですけど」
俺が真顔で切りすと、ナツさんは首を傾げ、包み込むような優しい声で返してくれた。
「いいのよ、何? 何でも聞いてちょうだい。私、かず君になら何を聞かれても嬉しいから。……蒼井もね、かず君のこと、昔から好きだったのよ。