"車椅子の看板娘と一億円の代償" 第3話
どうして蒼井なのかしら……どうして、あの子なの……」
母親としての痛烈な自己否定と絶望が、その言言に凝縮されていた。自分の命に代えても守りたかった最の娘が、理尽な暴力によって未来をへし折られたのだ。犯が野放しになっている現実が、ナツさんのをどれほど苛み、削り取ってきたかは像を絶する。
何ヶぶりかにふらりと顔をしただけの客である俺に対し、これほどまでにく、痛切なプライベートの告をしてくること自体、彼女が精神な限界を迎え、孤無援の淵でどれほど追い詰められているかの何よりの証拠だった。
ナツさんはふとに返ったようにハッとし、乱れた髪をで撫でつけながら、無理やり力のない笑みを浮かべた。
「ごめんね……久しぶりに来てくれたかず君に、いきなりこんな暗い話しちゃって。困っちゃうよね、せっかくのお客さんなのに。昔から、かず君は聞きで話しやすかったから……ついつい、余計なことまで喋っちゃって……」
「え、いえ! そんなことありません!」
俺は慌ててきく首を横に振った。
困ったような、申し訳なさそうな表を浮かべながら自分を取り繕おうとするナツさん。その痛々しい姿に、俺はわず息を詰まらせ、言葉に詰まってしまった。
だが、この苦しい沈黙をそのままにしておくことはできなかった。
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俺はゆっくりと体の向きを変え、しれた暗がりので子に々とを沈めている蒼井ちゃんへと線を移した。
俺は彼女の目線にわせるように、し腰を落として優しく声を掛けた。
「蒼井ちゃん……、痛いの? 丈夫か……?」
かつてのように、無邪気に「かず兄ちゃん!」と駆け寄ってきてほしいという淡い願いが胸をかすめる。
しかし、蒼井ちゃんは俺の呼びかけに対して、じろぎひとつしなかった。線はの点に注がれたまま、ぴくりともかない。まるで界の音をすべて遮断してしまったかのように、頑なにを閉ざし、彫像のように沈黙を守り続けていた。その瞳にはがなく、ただ底れない怯えと絶望のだけが沈んでいた。
ナツさんが痛ましそうに蒼井ちゃんの背を見つめ、さく溜息を吐きながら言った。
「ごめんね……せっかく話しかけてくれてるのに。蒼井、怪自体はもうほとんど治っているのよ。お医者様も、傷は塞がったっておっしゃっていて。あとはしずつ歩く練習ができれば、またみたいに歩けるようになるはずなんだけどね……。でも、こればっかりは、無理いすることなんてできないし……そもそも、こんな怪をしたのは、蒼井のせいじゃないものね」
「……そうですね」
俺は苦しい息を吐きしながら、く相槌を打つことしかできなかった。
の傷が肉体の自由を奪っているのだ。あの体験した底れぬ恐怖が、彼女のを、そして言葉を縛り付けているのだ。
俺とナツさんのやり取りを聞いていた蒼井ちゃんは、やがて線を度もこちらに向けることなく、痩せ細った両で子のハンドリムにを掛けた。
キィ、とさな属音が静かな内に響く。
彼女は誰の助けも求めず、ただひとり、力なく輪を回して奥の居スペースへと静かに帰っていった。
そのり際、俺の目は、客席のと奥の部の境目にある段差に留まった。そこには、真しい製のスロープが釘でしっかりと固定されていた。角がし擦り減り、輪が何度も通過した跡が残っている。彼女が子での活を余儀なくされてから、すでに半という決してくないが流れている事実が、そのスロープの佇まいから残酷なまでに伝わってきた。
ナツさんは、奥の暗がりへと消えていった娘のさな背をじっと見送った、張り詰めていた肩の力を抜き、くさな溜息をついた。
そして、客を入りにたせたままであることに気づいたように、慌てて俺を番のテーブル席へと促した。
「さ、かず君、突っってないで座って。お持ってくるからね」
ナツさんは厨へ戻り、季の入ったガラスのコップにを注いで持ってきてくれた。