"車椅子の看板娘と一億円の代償" 第1話
「かず君、筋につてはないですか?」
うららかな昼がりのが差し込む料理の先で、すがるように紡がれたその々しい問いかけが、今も俺の鼓膜の奥で微かに震えていた。
俺の名は、。今で歳になる。
世般の基準に照らしわせれば、俺は決してより秀でた才覚や器量を持っているわけではないと、自分自を極めて客観に評価しているつもりだ。の回転がずば抜けて速いわけでもなければ、を惹きつけてやまない華やかなカリスマ性があるわけでもない。ただ、をすするような裏社会の底辺からいがり、目のの現実と臭く向きってきただけの男だ。
だが、そんな取るにらない自分であっても、せめて自分のが届く範囲にいるな、世話になったたちや切な恩たちだけは、何があっても自分の命に代えて守り抜きたいと、それだけは頑なに胸に刻んできてきた。
そのの昼がり、俺は久しぶりの休を利用して、昔から繁く通っていた馴染みのうどんへとを向けていた。
町の片隅にひっそりと佇むその商は、駅の再発の波から取り残されたように、どこか昭の温もりを濃く残している。ち並ぶ個商の板には錆が浮き、古びたアーケードの窓からは柔らかな陽が筋となって面にり注いでいた。
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通りを歩く々の取りは穏やかで、昼ともなれば、汁の芳醇なりがに乗って漂ってくる。
俺は歩に埋め込まれた褪せたインターロッキングのタイルを踏みしめながら、目ののでを止めた。季の入ったの簾には、抜きでさく号が染め抜かれている。
「ああ、久々に来たな……」
俺は簾の端を指先で軽く撫でながら、胸の内でそっと呟いた。
「ここの主さん、昔から本当にいいだからな」
記憶のにあるそのうどんは、いつも隣の常連客や買い物帰りの主婦たちで賑わい、威勢のいい湯気とよいざわめきに満ちていた。主のナツさんは、俺がまだ何者でもなく、腹を空かせてを迷っていた若い頃から、損得勘定抜きで温かいうどんを盛りで振るってくれた恩だ。どんなに世辛い世のであっても、あのに歩を踏み入れれば、煮干しと鰹節の豊かな汁のりと、ナツさんの底抜けにるい笑顔が迎えてくれるはずだった。
俺はかつて通い詰めた内の活気ある様子を脳裏にい浮かべ、元に自然と微かな笑みを浮かべながら、引き戸の枠にを掛けた。
ガラガラと、油の切れた滑が擦れる乾いた音が響く。
「こんちは。お久しぶりです」
俺は簾をくぐり、気く声を掛けながら内へと踏み込んだ。
しかし、を踏み入れた瞬に全を包み込んだのは、俺の予を根底から裏切る、異様なほどの静寂だった。
内に客の姿はも見当たらない。昼をし過ぎた帯とはいえ、かつてなら数は残っていたはずの常連の姿もなく、規則正しく並んだ掛けの製テーブルは、まるで何も放置されたかのようにたく磨き抜かれていた。厨の寸胴からちるはずの濛々とした湯気も極端に細く、内には換気扇がく唸る械音だけが虚しく反響している。
俺はわずのでち止まり、眉をひそめて内の空気を肺に吸い込んだ。いつもの甘くばしい汁の匂いの奥に、何かしら張り詰めた、苦しい気配が沈殿しているのをじ取ったからだ。
すると、厨の奥の簾がわずかに揺れ、そこから柄な女性がりで姿を現した。
「いらっしゃい……」
械に発せられたその声は、かつての張りを失い、どこか怯えを含んでいた。だが、につ俺の姿を正面から捉えた瞬、その丸い瞳が見かれ、張っていた表が気に崩れた。
「あ、かず君じゃない! 久しぶりね。よく来てくれたわ。会いたかったのよ」
主のナツさんだった。代半ばを迎えた彼女は、以に会ったときよりもらかに体の線が細くなり、エプロンの胸元が頼りなく余っているように見えた。