"「私はいつ休めるの?」に夫は「家にいるだろ」と返した" 第15話
「……美さん。ごめんなさいね。お邪魔しました」
それ以、何も言わなかった。 牛すじのタッパーをテーブルに残したまま、義母は逃げるように玄関へと向かい、静かにドアを閉めてっていった。
乱暴な属音はしなかった。 ただ、ひとつの代が静かに終わりを告げたような、たい余韻だけが残された。
計の針が、夜の半を回っていた。
悠斗を寝かしつけ、暗い廊を通ってリビングへ戻ると、夫はダイニングテーブルにで座っていた。
部の気は消され、キッチンの元灯だけがオレンジに灯っている。 テーブルのには、義母が残していったタッパーと、夫が自分で台所へ運んだのであろう、洗われていない空のグラスが置かれていた。
私が部に入っても、夫は顔をげなかった。 両肘をテーブルにつき、両でを抱え込んでいる。
「……満かよ」
掠れた声だった。 第話の夜のような、子供じみた当てつけのトーンではない。 プライドをズタズタに引き裂かれ、拠ってつをすべて失った男の、震えるような声だった。
「母さんにあんなこと言わせて……俺を親戚の恥さらしにして……そこまでして俺を追い詰めて、楽しいかよ」
「楽しくなんかないよ」
私は夫の向かいの席に腰をろした。 静かに、バッグのから通のクリアファイルを取りし、夫の目のに滑らせた。
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テーブルのを、プラスチックのファイルが乾いた音をてて滑る。
夫が指のから線を落とした。
表に印字されたタイトル。
『復職に向けた活運営計画 兼 別居移に関する(案)』
夫の喉が、引きつるように鳴った。
「……何これ」
「私の条件」
を交えず、淡々と告げた。
「来の、私は会社に戻る。それまでに、あなたが『言われなくてものタスクを半分引き受け、自分ので考えて完結させられる』になれなかった、いっぱいでこのをます。悠斗を連れて、実か別のマンションに拠点を移す」
「……べっきょ……?」
夫の瞳が、信じられないというに染まる。
「お……本気配で言ってんの……? たかが事のことで……別居……?」
「たかが事じゃない」
私はを乗りし、夫の目をまっすぐに見据えた。
「これは、私たちのこれからのき方の話。私が求めているのは、指示をせば嫌々くじゃないの。隣で緒にを見て、子供の命と活の責任を、対等に背負えるパートナーなの」
ファイルの最初のページをいた。 そこには、保育園の送り迎え、夜の救急対応、用品の庫管理、事の準備と片付けが、軸と担当者ごとに確にブロック分けされていた。
「指示はもうさない。チェックもしない。あなたが担当するエリアは、あなたが自分で気づいて、自分で判断して完結させて。
もしそれができないなら……私はあなたを、これ以族として尊できない」
夫のが、刻みに震え始めた。 の端を掴む指先に、青い力がこもる。
「……俺に、どうしろって言うんだよ……。今までやったことないんだぞ……? 違えたらどうすんだよ……」
「違えればいいよ」
たく、けれど確かな響きを持った言葉を投げかけた。
「違えて、自分で始末をして、次にどうすればいいか自分で考えればいい。私は今まで、ずっとでそうやってきたの。あなたがソファで寝転がってスマホを見てる、ずっとでね」
夫は息を呑み、言葉を失った。
目のに突きつけられた、黒の類。 それは、これまで夫が無識に享受してきた「無償の母性」という名の兜が完全に剥ぎ取られ、の自したとしてきるか、それとも族を失うかの、猶予のない選択状だった。
夫は震える唇を噛み締め、ファイルをじっと見つめたまま、微だにしなくなった。
部のを、沈黙が支配する。
くで、夜更けのトラックが通り過ぎるい音だけが響いていた。
私はちがり、夫に背を向けた。 もう、あのの顔を窺うことはない。 私の元は、私自の志で、たく、く、定まっていた。
を突きつけたあの夜を境に、のから「言」が完全に消えた。
私がをかなくなったからだ。
「あれやって」「これやって」と催促することもなければ、脱ぎ捨てられた靴に眉をひそめることもない。