"「私はいつ休めるの?」に夫は「家にいるだろ」と返した" 第7話
「何?」
「分だけでいい。悠斗を見ててほしいの。ゆっくりお呂に入りたい」
「……お呂? いつも入ってんじゃん。カラスのみたいにさっと」
「髪をちゃんと洗いたいの。トリートメントも流しきれてないし、体も痛くて……分、悠斗を抱っこしててくれるだけでいいから」
夫はしの、面倒くさそうに井を見げた。 けれど、今週ずっと「指示通りにしてやってる」という自負があったのだろう。恩を着せるような笑みを浮かべて頷いた。
「いいよ。分な。タイマー測っとけよ」
「……ありがとう」
私は脱所へ駆け込み、急いでを脱いだ。 久しぶりに閉め切る浴のドア。 シャワーから吹きすい湯が、凝り固まった肩や背に当たった瞬、ふっと全の毛穴がくような覚がした。
急がなきゃ。 分あるとはいえ、いつ泣きすか分からない。 私はポンプを押し、シャンプーを泡てて皮に指をてた。 指先が泡だらけになり、ようやく息ついた、そのだった。
ドンドン、ドンドン!
浴のプラスチックの扉が、激しく叩かれた。
臓がねがった。 シャワーを止めると、脱所から夫の苛った鳴り声が響いてきた。
「おい! 美! くてこい!」
扉の隙から、悠斗のけたたましい泣き声が漏れ聞こえてくる。 尋常ではないのついたような泣き方だった。
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「……直!? どうしたの!?」
「泣き止まねえんだよ! ずっとギャン泣きしてて息止まりそうなんだよ! くしろ!」
まだにはい泡がべっとりと残っている。 計を見る。 入ってから、まだ分しか経っていなかった。
「オムツは!? 濡れてない!?」
「らねえよ! けてねえもん!」
「抱っこして部歩いてみて! バランスボール座って!」
「やったよ! 全部やったけど泣き止まねえんだよ! おじゃなきゃダメなんだって! くろよ!」
ドンドンと扉を殴る音がなる。 その振が、私の背骨に直接響くようだった。
の泡をシャワーで雑に流した。 目のにシャンプーの原液が入り込み、焼けるような激痛がる。 痛くて目がけられない。 ろくにすすぎもできないまま、濡れた体にバスタオルを巻きつけ、元を滑らせそうになりながら脱所のドアをけた。
洗面台のに、顔を真っ赤にして泣き叫ぶ悠斗を抱えた夫がっていた。 夫の顔は、りと焦燥で歪んでいた。
「ほら! く受け取れよ!」
突きされるようにして、濡れたバスタオル越しに悠斗を抱き取った。 悠斗のい涙と汗が、私のえ切った鎖骨に張り付く。
「よしよし、丈夫だよ、ここにいるよ……」
体を揺らしながら、悠斗の背をさする。 数分トントンとリズムを刻むと、悠斗の泣き声は次第にさくなり、ヒック、ヒックとしゃくりげるような呼吸へと変わっていった。
ただ、眠かったのだ。 寝ぐずりのタイミングで、抱っこの仕方がかったからになっただけだ。
リビングの壁掛け計を見げた。 まだ、分も経っていなかった。
私のからは、流しきれなかった泡が混ざった滴が、ポタポタとに落ちていた。 目元が真っ赤に充血し、涙とシャンプーの滴が混ざりって頬を伝う。
夫はソファにどっかりと腰をろし、肩で息をしながら言った。
「……もう無理だわ。俺、赤ん坊の相向いてない。おが抱いたら発で泣き止むじゃん。やっぱり母親じゃないとダメなんだよ」
悪びれるもなく、むしろ「俺は分も耐えてやった」と言わんばかりの態度だった。
バスタオル枚でち尽くす私の元には、たまりができていた。 体の芯から、が急速に奪われていく。 歯の根がガチガチと鳴った。
――母親じゃないと、ダメ。
その言葉の裏にあるのは、逃だ。 「俺にはできない」という無能の証を盾にして、最初から向きおうとしない卑怯さだ。
私は何も言わず、悠斗を抱いたまま洗面所へ戻り、内側から鍵をかけた。 鏡のに、びしょ濡れで、泡まみれで、バスタオルを巻いた無様な女がっていた。
ボロボロと涙がこぼれ落ちた。 シャンプーの痛みのせいではなかった。
私はただ、温かいお湯ので、誰にも邪魔されずに髪を洗いたかっただけだ。
たったそれだけの、として最限の権利すら、このでは許されないのか。