"父親になりたくないなんて、一度も言ってない" 第13話
夫はテーブルののえ切ったコーヒーを見つめた。
「で暮らす未来も、だけで歳をとる未来も、のだけで考えてちゃ駄目なんだよ。度、完全にになって……奈美がいない活ので、俺が本当に何を失って、何を選びたいのかを確かめたい。奈美も、俺に気を遣わずに、自分のをで見つめ直してほしいんだ」
夫の提案は、驚くほど静で、現実だった。 に任せて今すぐ婚届に判を押すのではなく、のみをきちんと受け止めるための、猶予期。
「……期は?」 震える声で尋ねた。
「ヶ」 夫は言った。
「ヶ、別々に暮らそう。活費やローンのことは、ちゃんと話しって分担する。連絡も、必な事務連絡以は控える。そうやって、お互いが『の』に戻ったで……もう度、こので話そう」
私は、テーブルのに置かれたつのマグカップを見つめた。 めきったコーヒーの表面に、夕暮れの暗いが反射している。
この提案を受け入れたら、私たちはもう度と、元の夫婦には戻れないかもしれない。 別居の先にあるのは、おそらく、静かな終わりだ。 そんな予が、胸の奥でたく脈打っていた。
けれど、私には拒否する選択肢など残されていなかった。 これ以、夫の魂をこの部に縛り付けておくことなんて、できるはずがなかったのだから。
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「……分かった」
私はさく頷いた。 窓ので、くをるのい鉄の音が、たいに乗って微かに響いていた。
別居が決まってからの週は、恐ろしいほど事務に過ぎていった。
私たちは鳴りうことも、取り乱すこともなく、淡々と「分担」の作業をめた。 それはまるで、会社のきなプロジェクトを粛々と畳んでいくような、気なほどの理性と静さに支配されただった。
夫は職のく、鶴見にあるワンルームの賃貸マンションを仮まいとして契約した。 賃は夫の座から引き落とされる。 この横浜のマンションの宅ローンと管理費は、これまで通りペアローンとして折半で座に振り込み続けることになった。 費や費の精算方法、共の郵便物の転送続き、座の確認。
婚姻関係という法な枠組みを維持したまま、活の実態だけを真っつに引き裂く作業。 つひとつの続きを終えるたびに、かけて編みげてきた布の結び目が、プチプチと音をてて解けていくような覚がした。
の最初の曜。 夫が荷物を運びすがやってきた。
業者を呼ぶほどの掛かりな引っ越しではなかった。 夫が持っていくのは、当面の着替えを詰めたきなスーツケースつと、仕事の資料や本を詰めた段ボール箱がつだけ。
やきな具はすべてこの部に残し、夫は最限のの回りの品だけを持ってていくことになっていた。
「これで、全部かな」
昼過ぎ、リビングの真んに置かれたスーツケースのジッパーを閉めながら、夫が呟いた。 ジーッという無質な属音が、ガランとした部にく響く。
「……本棚のカメラ、置いていくの?」 私が尋ねると、夫はリビングの棚に並んだレフに目をやり、さく首を横に振った。
「うん。持っていくと、仕事に集できなくなりそうだから。ここに置いといて」
夫はそう言って、クローゼットの奥から持ってきたさな袋を私に差しした。 には、この部のスペアキーが入っていた。
「応、返しておくよ」
「……持っていればいいじゃない。悠介のでもあるんだから」
「いいよ。鍵を持ってると、いつでも帰れるって甘えがるからな」 夫は自嘲気に微笑んだ。 その笑顔の輪郭が、のいので透き通るように見えた。
「じゃあ、そろそろくよ。、呼んであるから」
夫はつの段ボール箱を両に抱え、私はスーツケースを引いて、緒に玄関へ向かった。
に、夫の革靴と、私のパンプスが並んでいる。 、当たりのようにそこにあった景。 夫がスニーカーにを入れ、靴紐を結び直す。 背を丸めたその姿勢を、私はろからじっと見つめていた。
何か言わなければいけないとった。