みかん小説
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"父親になりたくないなんて、一度も言ってない" 第5話

そして、今私たちがっている、側の。

その側の部の角い枠のに、文字がき込まれていた。 産の印字ではない。 いシャープペンシルで、りきされたきの文字だった。

『子ども部(ベッドと学習机)』

見慣れた、夫の几帳面な跡だった。

枠の隅には、さらにさく、消しゴムで消そうとして消しきれなかった跡が残っていた。 『男の子でも女の子でも。将来仕切り?』

血の気が引いていくのが分かった。 指先がたくなり、持っていたが微かに震えた。

「……これ」 声が掠れて、うまくなかった。

「、内見に来たにいたやつだろ」 夫は静かに軍をし、に線を落とした。

「あの、いろいろ具の配置をシミュレーションしてただろ。そのに適当にいただけだ。いはないよ」

「嘘」 をく握りしめたせいで、端がくしゃりと音をてた。

「いがないわけない。悠介、ここを買う、私に何て言った?」 記憶の引きしが、恐ろしいほどの鮮さでいていく。

『LDKにしておこうよ。お互い仕事を持ち帰ることもあるし、のも必だろ?』 夫はそう言って、予算よりしかったこの物件をく推したのだ。 私はてっきり、お互いのプライベートスペースを確保するための提案だとい込んでいた。 私の仕事を応援してくれているのだと、嬉しくっていた。

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けれど、違った。 夫は最初から、ここを子ども部にするつもりで買っていたのだ。 のローンを組んだその瞬から、夫ののには「いつかここに子どもが座る未来」が描かれていた。

「ねえ、答えて」 喉の奥が張り裂けそうだった。

「結婚する、私、言ったよね? 子どもは欲しくないって。母親になる自信はないし、できていきたいって。あの、悠介は何て言った? 『奈美の考えを尊する』って、笑って言ったよね?」

夫は黙っていた。 壁の向こうから、隣の部の掃除の音が微かに響いてくる。

「あの返事は、何だったの?」 問い詰める私の声が、けなく震える。

「私の言ったこと、最初から信じてなかったの? 結婚して、緒に暮らして、齢をねれば……私がいつか『やっぱり子どもが欲しい』って言いすとってたの?」

番、触れてはならない核だった。 、のどこかで々勘づきながらも、見ないふりをして蓋をしてきた疑惑。

夫はゆっくりと顔をげた。 その表には、もう取り繕うような笑みはなかった。 ただ、隠しきれなくなった真実のみに耐えかねたような、痛々しい歪みがあった。

「……ああ、そうだよ」 夫は、ぽつりと認めた。

私の臓が、ドクンと嫌な音をてた。

「ってたよ。あのはまだ代半ばだったし、周りも独ばかりだったからな。

歳をとって、友だちに子どもがまれて、活が落ち着けば……奈美の気持ちも自然と変わるだろうって。そうってた」

「……どうして」 涙が、勝に目から溢れた。

「どうして、私の言葉を信じてくれなかったの? 私は真剣に言ったのに。自分のの、番事なこととして伝えたのに!」

「悪かったとってるよ!」 夫が、珍しくい語気を発した。 けれど、その声はりではなく、鳴にかった。

「当の俺が浅はかだったんだ。子どものいないなんて、リアルに像できてなかった。結婚すれば、みんな普通に親になっていくものだとい込んでたんだよ。奈美の言葉を軽してたわけじゃない……ただ、の気持ちなんてが経てば変わるものだって、都よく信じたかったんだ」

夫は両で顔を覆い、く息を吐きした。

「でも、変わらなかった。経っても、おの気持ちはミリも変わらなかった。……それが分かったから、俺は先、諦めたんだよ」

部のに、い静寂がり積もった。

壁に貼られたままの、汚れた壁。 元に散らばる段ボールの。 そして、私ののにある、いシャープペンシルでかれた『子ども部』の文字。

私たちは、同じ部にみ、同じベッドで眠り、同じ卓を囲んでいた。 けれど、見ていた景は最初から全く違っていたのだ。

私はこの部を「私たちの自由な」だとっていた。 夫はこの部を「いつか族が増えるための器」

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