みかん小説
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"父親になりたくないなんて、一度も言ってない" 第2話

と聞こえた。

「悠介、何かってる?」 たまらず聞いた。 夫は驚いたように目を見張り、それからいつもの穏やかな笑顔を作った。

「ってないよ。どうして?」 「だって、最なんだか……私に全部丸投げっていうか、興なさそうだから」 「そんなことないよ。奈美の希望を、ちゃんと優先したいだけだよ」

そう言われてしまえば、それ以は何も言えなかった。 私の選択を尊してくれている。 望み通りの結果をに入れたはずなのに、のにたい隙が吹き抜けていくのを止められなかった。

そして、あのがやってきた。

の、え込む曜の夜だった。 残業で疲れてベッドに入ったものの、喉が渇いて目が覚めた。 寝の計は、午を回っていた。 隣を見ると、夫の布団はもぬけの殻だった。

まだ起きていたのだろうか。 裸で寝をて、静まり返った廊を歩いた。 リビングの引き戸の隙から、細いかりが漏れていた。

音を忍ばせてづくと、い話し声が聞こえた。 ベランダに面した窓のそばで、夫がスマートフォンをに当てていた。 誰かと話している。 このに話をする相なんて、学代からの親友である森田さんくらいしかい当たらない。

「……うん、先話したよ」 夫の背が、微かに丸まっていた。

「ああ、奈美には、できていこうって伝えた」

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臓がねた。 息を潜め、引き戸のにを隠した。 盗み聞きなんて悪趣だと分かっていた。 でも、が縛りに遭ったようにかなかった。

受話器の向こうから、森田さんのくぐもった声が聞こえる。 何を言っているかまでは聞き取れない。 けれど、会話のから、森田さんが困惑している空気だけは痛いほど伝わってきた。

夫はしばらく黙り込んでいた。 ベランダのガラスに映る夫の横顔は、私が度も見たことのないほど、く沈んでいた。

「……しょうがないだろ。奈美は産みたくないんだから」 絞りすような声だった。

「これ以言い続けたら、あいつを壊してしまう。結婚したから分かってたはずなのに、俺が期待しすぎたんだ」

森田さんが、何かい調で問いかけたようだった。 受話器の向こうの声がしきくなり、夫は静かに息を吸い込んだ。

「森田、おさ」 夫の声が、震えていた。

「おは、本当に、父親にならなくていいのかって……そう言いたいんだろ」

臓が痛いほど激しく肋骨を叩いた。 喉が干からびて、呼吸の仕方を忘れそうになる。 夫は、何て答えるのだろう。 「納得した」「で幸せになる」と、そう言ってくれるはずだ。 先、あのシチューの夜に誓ってくれたように。

けれど、夫のからこぼれ落ちたのは、全く別の言葉だった。

「……俺、父親になりたくないなんて、度も言ってないよ」

ので、何かが音をてて弾けんだ。

「なりたいよ。ずっと、自分の子どもを抱いてみたかった。でもさ……それをにしたら、奈美とは緒にいられないだろ」

ち尽くす私の元から、血の気が引いていく。 夫の背が、これ以ないほどさく、孤独に見えた。

それ以、聞いてはいられなかった。 私は音をてないよう必で息を殺しながら、暗い寝へと逃げ戻った。

ベッドに入り、毛布をからかぶっても、震えが止まらなかった。 の奥で、夫の掠れた声が何度も何度も再される。

――父親になりたくないなんて、度も言ってないよ。

あの夜流した私の涙は、体何だったのだろう。 夫が放したのは、ただの「見」ではなかった。 私と緒にいるために、自分ののを、無理やり喉の奥へ押し戻しただけだったのだ。

翌朝、キッチンの換気扇が回る音で目が覚めた。

寝をると、夫はすでに仕事着のシャツを着て、フライパンで目玉焼きを焼いていた。 チリチリと油がねる乾いた音が、静かな部に響いている。

「おはよう、奈美。今、燃えるゴミのだからしておいたよ」 振り返った夫は、昨夜の話などなかったかのように、いつも通りの穏やかな顔をしていた。

その笑顔を見た瞬、胸の奥に黒い澱のようなものが広がっていくのをじた。

罪悪と、恐怖と、やりのない苛ち。 テーブルのに置かれたマグカップに、指先が触れる。

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