"式1時間前の略奪と百八十万円" 第14話
「あのね……会社が傾いてるの。見栄を張ってきなショールームを借りたのに、注の職さんたちに無理ばかり言って逃げられて……」
「俺に、何をしろと言うんだ?」
「やり直したいの! あのは分からなかった……あなたがこんなに仕事ができるだったなんて! あのといると、全部私のせいにされるのよ! あなたは、そんなこと言わなかったじゃない!」
かりの言葉を聞きながら、俺のは驚くほどえ切っていた。
彼女が求めているのは、俺というではない。自分を無条件に甘やかし、都よく守ってくれる便利な防波堤なのだ。
「俺は、戻るつもりはない」
「……こよりがいるから?」
「俺が、君と暮らしたいとわなくなったからだ」
その、相談の奥からこよりが静かにてきた。
「お姉ちゃん。蒼介さんの隣にいるかどうかは、蒼介さんと私が決めることだよ。お姉ちゃんの持ち物だった所じゃない」
かりは妹を睨みつけたが、こよりの揺るぎない瞳に気圧され、やがて力なく肩を落とした。
「……私、そんなに悪かった?」
「何があったかは、もう全部話した。返済は期通りにめてくれ」
俺は背を向け、相談の鍵を閉めた。
ちっていくかりのろ姿を、俺たちは度と振り返らなかった。
その夜、台所には温かいシチューの匂いが満ちていた。
しくで作った、ナラの無垢材のダイニングチェアに腰掛けながら、俺はお椀を運んできたこよりを見げた。
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「この子、座りにくいところはないか?」
「もう、また聞くんですか? 私はその子より、隣に座るの方が気になります」
「……隣のは、俺でいいのか?」
「蒼介さんがいいです。子も完璧ですよ。私が何度も座って、直してもらいましたから」
事を終え、お茶をんでいた、こよりが改まった表で居まいを正した。
「蒼介さん、私……言いたいことがあります」
「うん」
「姉が来たから急にいったわけじゃありません。ずっとから考えてて……でも、欲張りだとわれたら嫌で、言えなくて」
「聞かせてくれ」
こよりは膝ので指をぎゅっと絡め、目遣いに俺を見つめた。
「緒に仕事をして、恋になって……それだけで分だって、自分に言い聞かせてました。でも、本当は……これからもずっと、に帰ったら蒼介さんがいるっていたいです。おばあちゃんになっても、番に『ただいま』って言いたいです。今あったことも、嬉しかったことも、ずっと隣で聞いてほしいんです」
俺はわず吹きしてしまった。
「……え、なんで笑うんですか!?」
「ごめん。俺が先に言うつもりだったからさ」
俺はポケットから、さな製の箱を取りした。
「指輪は、で買いにこう。これは……その、指輪のケースを自分で作ったんだ。角が気になって、回くらい丸く削り直した」
「……回」
「今度は、俺が回言ったよ。
……こより、俺と結婚してください。で、これからの暮らしを作っていこう」
こよりの目から、粒の涙が零れ落ちた。
「はい……! 私、蒼介さんのお嫁さんになりたいです……! これからも、いっぱい甘えていいですか?」
「いいよ。俺も、いっぱい頼るから」
あの、たい控で引きされたを、別の誰かが握り直してくれた。
今夜、俺はそのを、自らの志でく、優しく握り返した。
あのから。
俺たちは、親しい友たちと、お世話になった仕事仲だけを招いて、さな結婚式を挙げた。
会に並べられた子は、すべて俺たちが入れをし、座るの顔をい浮かべながら並べたものだった。
「寺尾さんの席、入りのくでよかったかな?」
タキシード姿の俺が尋ねると、ドレス姿のこよりが嬉しそうに頷いた。
「はい。が痛くならずに歩けるって、すごくんでくれました。……お母さんも、笑ってくれてましたね」
こよりの母親も、をかけて話しった末に、このを祝福しに来てくれていた。
「そろそろ、俺たちの入だな。……緊張してるか?」
「すごく。蒼介さんは?」
「俺も、汗がすごいよ」
「ふふ、じゃあ、緒にきましょう」
扉がき、参列者たちの温かい拍がを包み込んだ。
「おめでとう! 今は具のことなんて忘れて、自分たちで楽しむのよ!」
寺尾さんの声が響き、町氏が優しく拍を送ってくれる。
式を終え、式のの扉をけると、そこには澄み切った青空がどこまでも広がっていた。
あのち尽くした、たいのる扉とは、まるで違っていた。
「こより、緒に帰ろう」
俺がを差しすと、こよりは眩しそうに目を細め、そのを両でしっかりと包み込んだ。
「はい、帰りましょう。……私の、旦様」
「……回だけ、呼んでみたかったんだろ?」
「はい! 先輩でも、蒼介さんでも、旦様でも……全部好きです」
柔らかいのが、のを通り抜けていく。
捨てられたあのの続きを、俺はもう、ではきていない。