"式1時間前の略奪と百八十万円" 第11話
相変わらず俺は洗剤を入れすぎて泡をてたし、こよりは疲れていても「丈夫」と言いかけた。ただ、呼び方だけが『蒼介さん』と『こより』に変わった。
ヶの同居期限がづき、俺はしいまいを探し始めていた。で暮らすにしても、けじめをつけたかったからだ。
そんなあるの朝、こよりのスマートフォンに枚の写真が送られてきた。
役所ので婚姻届を掲げて笑う、かりと宮の写真だった。
「……入籍したそうです」
「そっか」
胸の奥に、チクリとした痛みがらなかったと言えば嘘になる。だが、その痛みは、かつてのような執着や未練ではなく、通り過ぎた嵐の爪痕のようなものだった。
「蒼介さん、パン焦げてますよ」
「あ、いけない……!」
「ちょっと焦げてるくらいが、ばしくて好きです」
「無理して好きって言わなくていいよ」
「本当に好きなんです。蒼介さんが作ってくれる朝ごはんも、こうして隣にいられるも」
穏やかな朝の空気を切り裂くように、玄関のインターホンが乱暴に鳴り響いた。
ドアをけると、そこには派なブランド物のバッグを抱えたかりがっていた。
「……こんなところで、本当に緒にんでたんだ」
かりはのままがり込もうとする勢いで、リビングのこよりを睨みつけた。
「こより、お母さんになんて説するつもりなの? 妹が姉の婚約者にをしたなんて、親戚にられたら恥ずかしいでしょう!」
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「をしたって何よ」
こよりが凛とした声で言い返し、歩にた。
「私が別れるのを、ずっと待ってたんでしょ? あんなタイミングで迎えに来るなんて、来すぎてるもの!」
「かり、その言い方はやめてくれ」
俺がのに割って入ると、かりは忌々しそうに腕を組んだ。
「ほら、もう妹の言うことしか聞かないのね」
「事実を話しているだけだ。あの、こよりは式で最まで待っていた。君と宮さんが、裏で居の契約を済ませていたにね」
かりが言葉に詰まったその、け放たれた玄関から、宮がゆっくりと入ってきた。
「まあ落ち着け、かり。……野坂君、君にとっても悪い話をしに来たんじゃないんだ」
宮はポケットから名刺のカードを取りし、テーブルのに置いた。
「来、デベロッパーの型商業施設の具を括で掛けることになった。君が僕ので制作をまとめてくれるなら、今回の式でのいざこざは完全にに流してやる。もちろん、表にる板は僕の会社だ。君は今まで通り、裏方としてをかせばいい。余計な名をさなければ、発注元も混乱しない」
宮はちらりと、寺尾さんのに置かれたものと同じ、俺とこよりの連名カードを見ろして嘲笑した。
「こよりちゃんの名まで載せて、体何を始めたんだ? この子は学の頃から、途で自信をなくして投げす癖があるだろう」
こよりの肩が、さく縮こまるのが分かった。
以の俺なら、波をてないために曖昧な笑みを浮かべ、そのをやり過ごしていただろう。だが、今の俺には、守るべきものがあった。
「こよりは、最までやり切りましたよ。俺が番くで見ていました」
俺は宮の目を真っ向から見据えた。
「仕事の実績として話しています。現の線を見つけ、図面を直し、納品までやり遂げた。名を載せるのは当然の権利です」
「君は妹のことを何もらないくせに……!」
かりが横から甲い声をげた。
「らないことは、これからで話してっていきます。あなたに決めてもらう必はありません」
「私と別れた腹いせに、こよりを選んだんじゃないの!?」
「俺は、こよりが好きだから緒にいるんだ」
はっきりと、迷いなく告げた言葉に、かりが息を呑んだ。
「俺にそういうを向けてくれることを、こより自が選んでくれたんだ。その事実を、あなたの代わりだとか、腹いせだとか、勝な理屈で汚さないでくれ」
こよりが俺の隣に並び、姉を見つめた。
「お姉ちゃん。私、蒼介さんと付きってる。お母さんには、私からちゃんと話す。……でも、自分が好きなを、毎回お姉ちゃんに許してもらうのは、もうやめる」
「勝にしなさいよ……!」