"式1時間前の略奪と百八十万円" 第8話
「いいよ。お米キロ、頼れる先輩の番だろ?」
俺が肩に担いだ米袋を揺らすと、こよりはくすくすと笑った。
「何でも言って、って言われたので慮なく甘えちゃいました」
「たまにそういうに、悪戯っぽく笑うよな」
自販のにち寄り、俺は財布を取りした。
「コーヒーむだろ? いつもブラックでいいのか?」
「あ……それは、どっちでも丈夫です」
「どっちが好きかって聞いてるんだよ」
こよりはし線を彷徨わせ、それから声で言った。
「……甘い、カフェオレが好きです。先輩のだと、好きなものをちゃんと言える気がします」
「そうなのか?」
「姉がいつも、甘いコーヒーをむと『子供っぽい』って笑うから……なんとなく、になったら苦いブラックを美しいって言わなきゃいけないのかなってってて」
「俺だって、で疲れたは砂糖をほど入れてんでるよ。見たらびっくりするとう」
「ふふ、先輩もなんですね」
に帰り、夕飯のにで流し台にった、事件は起きた。
俺が洗剤のボトルを力任せに押してしまい、スポンジから溢れた泡が、瞬くにシンク全体を覆い尽くしたのだ。
「先輩、止めて! 泡が増えてます!」
「流せば減るかとってシャワーをくしたんだが……」
「見ちゃダメです、笑っちゃう……!」
こよりはお腹を抱えて笑い崩れた。
「だって……あんなにミリ単位の精密な具を作れるが、お皿洗いはこんなに器用だなんて」
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「皿洗いは専なんだよ」
膨れ面をする俺を見て、こよりは涙を拭いながら、おしそうに呟いた。
「……先輩がちゃんと笑ってくれたから。もっと見たいな、その顔」
その言葉に、俺はハッとした。
流し台の泡と格闘している、自分が誰に裏切られ、何を失ったのかを、完全に忘れていたのだ。
数、寺尾さんから連絡が入り、修理途の子の写真をSNSに載せてもいいという許がた。
「こんなさな町の喫茶の修理でも、見せていいのかな」
作業台でカメラを構える俺に、こよりが言った。
「困っているは、きな具さんには相談しにくいんです。どこが壊れていて、どう直したかが分かれば、同じことで困っている所のたちが相談しやすくなりますよ」
「なるほどな……」
俺は完成した美しい具の写真しか残してこなかった。だが、こよりは修理の傷や、使い込まれた痕跡にこそ、伝えるべき物語があると言った。
「あ、先輩。これ、昨言ってた鞄掛けのフックの図面です」
こよりがおずおずと差ししてきたスケッチブックには、座面の側面に製のさな突起を取り付ける案が描かれていた。
「ちょっと、座ってみてもいいか?」
俺が子に腰掛け、ちがろうとすると、ズボンの裾がわずかに製フックの角に触れた。
「……あ、引っかかるな。つにに触れちゃう」
こよりはすぐに膝をつき、から覗き込んだ。
「じゃあ、し内側……座ったままが届いて、ちがるのの軌かられる位置に移させましょう」
「いいね。試してみよう」
「本当に……? 私のいつきなのに」
「もちろん。これは、ちゃんと仕事として寺尾さんに提案しよう。図面を描いたと、写真を撮る、俺たちのでもしっかり数を計算して請求に乗せるんだ」
「そんな、おをもらうほどじゃ……」
「俺も、昔はそうやって自分の仕事を売りしてきた。で世話になってることと、仕事の対価は別にしておきたいんだ。助けてもらった分を、全部好という曖昧なもので済ませたくない」
こよりは真剣な表で頷き、それから控えめに言った。
「じゃあ……提案のに、私の名も連名で載せていいですか?」
「当たりだろ。俺で作ったことにしたら嘘になる」
こよりはの端に、ゆっくりと、違えないように『帆波こより』と文字をき入れた。その横顔は、誇らしげで、どこか照れくさそうだった。
だが、最初の試作品は、現での確認でうようにいかなかった。
寺尾さんのに仮設置してみると、フックにきな鞄を掛けた際、隣の席に座ろうとするの膝にどうしても触れてしまうことが判したのだ。
「座るところばかり気にして、通を歩くの幅を見ていませんでした……」
に戻ったこよりは、作業台に突っ伏してひどく落ち込んでいた。