"式1時間前の略奪と百八十万円" 第4話
親族や来客へのキャンセルの連絡、費用の請求先についての事務な確認がむ、こよりは静かに部の隅の廊で待っていた。
彼女は、俺たちの問題に余計なを挟もうとはしなかった。ただ、扉のガラス越しに、じっと俺の背を見守っていた。
やがて続きの初が終わると、かりは吐き捨てるように踵を返した。
「こより、帰るわよ! あなたは私の妹なんだから、こっちに来なさい!」
ドレスの裾を乱暴に持ちげたかりが、廊へて叫んだ。宮が無言でそのろに続く。
だが、こよりは壁に背を預けたまま、かなかった。
「私は、先輩が帰れるまでここで待つ」
「……勝にしなさい! で泣きついてきても、絶対にらないからね!」
ざかっていくかりのヒールのい音と、宮の革靴のい音が、静まり返った廊の彼方へと消えていった。その音が完全に聞こえなくなるまで、俺は差しされたグラスのを、もむことができなかった。
式の裏をると、の空は鉛のに覆われ、たいがり始めていた。
タキシードの着を脱ぎ、肩に掛けた俺の隣で、こよりが申し訳なさそうに俯いていた。
「……さっきは、ありがとう。こよりちゃん、お姉さんと気まずくなっただろ」
「もう、なってます」
こよりは線を元に落としたまま、く返した。
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「ごめん……」
「先輩が謝ることじゃないです」
こよりはち止まり、俺の顔をいを宿した瞳で見げた。
「私があそこに残るって、自分で決めたんですから」
そう言って、彼女は自分のさなバッグから、布で包まれた細いものを取りし、俺の胸元へと差しした。
触れると、じんわりとした温もりが伝わってくる。自販で買ったばかりの缶コーヒーが、すぎないようにと、彼女の清潔なハンカチで丁寧に幾にも巻かれていた。
「……ちゃんと、気をつけてくれてるんだな」
何気なくこぼした自分の言葉に、胸の奥がきゅっと音をてて縮んだ。
今というのために、俺は何をしてきたのだろうか。
「昨……子を磨いたんだ」
に濡れるアスファルトを見つめながら、ぽつりと言葉が漏れた。
「子……ですか?」
「居のリビングに置く、脚のダイニングチェア。同じナラの無垢材から削りしてさ。片方だけ、座面をしく作ったんだ。かりが、をにつけやすいようにって……靴を脱いだのさを何度も測ってさ」
こよりは何も言わず、ただ静かに俺の横顔を見つめていた。
「……そんなことしてるに、向こうは別の男と別のを決めてたんだな。俺は、体何を見てたんだろう。あんなに何も緒にいたのにさ」
けなさと悔しさが混ざりい、界が滲みそうになるのを必で堪えた。
だが、こよりは首をさく横に振った。
「先輩が、緒に暮らそうとして具を作っていた気持ちは、ちゃんと伝わってます」
「でも……それじゃりなかったんだよ」
「私には、りないなんてえません」
こよりの声は、驚くほど澄んでいた。
彼女は「いつか幸せになれる」とも、「あんなのことはく忘れた方がいい」とも言わなかった。っぽい慰めの言葉を切使わず、ただ自分の持っていた乾いた麻の着を広げ、で湿った俺の肩へとそっと掛けた。
「……、見なくていいです。私も、見てますから」
そう言って、彼女は俺の隣で並んでち、静かに落ちてくる粒の波紋を見つめ続けた。
その横顔を見つめながら、俺はに現実のみに打ちのめされた。
「……今、帰る所がなくなっちゃったな」
居の契約にわせて、今までんでいたアパートは先末に完全に引き払っていた。具や具はすべてに運び込み、今夜からは居の鍵をけて眠るはずだったのだ。
こよりは線をから戻し、しだけ困ったように眉尻をげた。
「今夜だけでも、ちゃんと体を休められるところにきましょう。先のことは、座って、温かいものをんでから考えませんか?」
「でも……ホテルを探すにしても、持ちの現が細いし、ので寝るわけにもいかないしな」
「私の、来てください」
迷いのない言葉に、俺はわず息を呑んだ。
「え……? でも、それはまずいだろ。