"式1時間前の略奪と百八十万円" 第2話
「やめて、こより! そのからをしなさい!」
かりがブーケをサイドテーブルに叩きつけ、妹の腕を掴もうとを伸ばした。
「その子だけはやめて。私の妹よ」
かりのその言葉に、こよりが弾かれたように振り返った。
ゼミの講評会でも、教授から理尽な評価を受けたでさえ、度も声を荒らげたことのなかったこよりが、喉を引き裂くような叫びを控に響かせた。
「じゃあ、私が先輩を幸せにしても文句ないよね!」
静寂が、瞬にして部を支配した。
シャンデリアの微かな唸り音だけが、の奥に痛いほど響く。かりは伸ばしかけたを宙で直させ、信じられないものを見る目で妹を見つめていた。宮もまた、先の笑みを消し、愉そうに眉を寄せてを睨みつけている。
「……ちょっと待って。何その言い方? からそういうつもりでうちに来てたの?」
かりの声が、次第に苛ちを含んでくなった。自分のい通りにむはずだった計画に、内から予期せぬを塗られたことへの純粋な憤りだった。
こよりは俺のを握り締めたまま、歩も引かずに姉の目を睨み返した。
「そんな話してない! 今、先輩をにしたくないって言ってるの!」
「族のことにをさないで! これは私と蒼介の問題よ!」
かりがヒステリックに叫び、元のシルクを踏みつけた。
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その剣幕に、俺はハッとに返り、こよりのを解かないよう配慮しながら、彼女の震える肩のに自分の体を滑り込ませた。
「……だったら、俺に話してくれ。かり、こよりちゃんを責めることじゃない」
俺がにると、かりはわずかに怯んだように唇を噛んだ。
妹のよりちゃんとは、学の制作ゼミでりった。俺よりつで、昔から周囲が騒がしく自己主張するでも、の話を最までじっくりと聞く穏やかな子だった。その子が、血の繋がった実の姉のでこれほど激しい声を張りげる姿など、会ってから度たりとも見たことがなかった。
背で宮が、面倒くさそうにネクタイの結び目を緩め、歩みてきた。
「ここで騒ぐなよ。みっともないだろう。披宴は止にすればいい。式には、君から説しておいてくれ」
宮は事も無げに、まるで発注ミスの責任を末端の請けに押し付けると同じ調で言った。
「……俺から?」
乾いた問いかけが、俺のから零れた。宮のたい線を受け止めながら、俺の拳はタキシードの布のでくなるほど握り込まれていた。
「あなた、そういう調得でしょ」
かりが、さも当然だと言わんばかりに顎をしゃくった。
「招待したたちにも、直で性格がわないって分かったからって言えばいいじゃない。
角がたないようにうまくやってよ」
その言葉が、の奥で鋭く突き刺さる。俺は昨の夜、話で聞いた彼女の声をいしていた。
「昨、確認したよな。から緒に暮らすの、楽しみだって。具も揃って、あとは荷物を運び込むだけだって……お、笑って言ってたじゃないか」
かりはふっと目を伏せ、ため息をついた。
「言えなかったのよ。あのタイミングで言ったら、あなた傷つくでしょう」
傷つけないためだった、と言いながら、かりは度も俺の顔を見ようとしなかった。彼女の指先は、すでに俺のものではなく、宮のジャケットの袖についたさな糸屑を、親しげにつまみ取っていた。その無造作な常の仕が、何よりも残酷に俺のを拒絶していた。
「先輩……」
こよりが俺の袖を、すがるように引いた。
「私、今朝、姉から連絡が来て……それで」
「こより、その話はにして!」
かりが声を尖らせて遮ろうとしたが、こよりは構わずに自分のバッグから枚のつ折りにされたを取りし、俺の目のに差しした。
「これを見せるに、先輩に会いたかったんです。式に来るに何度も話したんですけど、全然繋がらなくて……」
俺は胸ポケットにをやり、スマートフォンの画面を確かめた。画面には、こよりからの着信が何件も赤く並んでいた。
タキシードに着替える際、式に集するためにマナーモードにして鞄の底に放り込んでいたのだ。