"式1時間前の略奪と百八十万円" 第1話
静まり返ったブライズルームの空気は、エアコンので自然なほどえ切っていた。
テーブルのには、けられることのなかったシャンパングラスがつ、蛍灯の鋭いを反射してく凍りついたように佇んでいる。
計の針が々しくみ、結婚式の宴まであとを示す位置を指していた。
純のウェディングドレスにを包んだかりが、両でブーケを握り締めたまま、わずかに線をに落とした。その指先には、俺が半分のの利益を削って贈ったプラチナの指輪がっている。だが、彼女の隣には、俺のタキシードとは仕ての違う、濃紺のオーダーメイドスーツを着こなした男が、当然のような顔をしてっていた。
宮宗郎。俺がかつて勤めていたデザイン事務所の代表であり、の独も、逆らうことのできない元請けとして俺に仕事を回し続けていた男だ。
かりは度、えられたい睫毛を伏せ、それから逃げるように線を斜めへと逸らした。
「ごめん。結婚やめる。私、このと緒になるから」
声には震えがなかった。まるで、の気の話でもするかのような、乾いた、それでいて迷いのない響きだった。
俺は喉の奥が急激に干からびていくのをじながら、ただ自分の指先を見つめた。
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爪のにわずかに残った屑の匂いが、今朝まで居のためにカンナをかけていた作業台の触を無慈に呼び覚ます。ので何かが激しく軋む音がしたが、言葉になって唇から零れ落ちるものは何もなかった。
「……かり、何を言ってるんだ。あとで、親族も、おの友も来るんだぞ」
掠れた声を絞りした俺の顔を、宮が憐れむような細い目で正面から見据えてきた。宮はスラックスのポケットにを突っ込み、わずかに顎を引いてい笑みを浮かべた。
「悪くうなよ、野坂君。彼女にも、自分の活を選ぶ権利はあるだろう」
その滑らかな声が、たい部の壁に反響した。宮のが、躊躇うことなくかりの細い腰へと滑り落ち、引き寄せるように添えられる。かりはそのみに抗うこともなく、むしろすがるように体を預けた。その仕のすべてが、今この瞬に始まった裏切りではないことを雄弁に物語っていた。
俺の膝が微かに揺れ、の絨毯をく踏みしめようとしたそのだった。
控のい扉が、勢いよく側へ弾けぶようにいた。
「先輩!」
荒い呼吸とともに滑り込んできたのは、息を切らし、乱れた黒髪をにかけることも忘れてち尽くす、帆波こよりだった。
俺よりつで、学の建築・制作ゼミで会って以来の輩。
普段はいつもの話を最まで静かに聞き、控えめに微笑んでいるはずの彼女が、肩を激しくさせ、血ったような瞳で内を見渡していた。
こよりの線が、俺の青ざめた顔を捉え、次いで寄り添いうかりと宮へと突き刺さる。
「こより……? どうしてここに」
かりが眉を顰め、忌々しそうに腰を引きした。
こよりは姉の問いかけには切答えず、股で歩み寄ると、俺のにちはだかるようにして背を向けた。その柄な肩が、りと恐怖で刻みに震えているのが、にある俺の目にはっきりと見えた。
「先輩、待って。で帰らないでください」
振り返ったこよりの瞳には、粒の涙が溜まっていた。だが、その線は俺の体を逃がすまいと、く、真っ直ぐに注がれていた。
「こより、そのに何してるの? れなさい」
かりが鋭い声をげ、ドレスの裾を擦らせながら歩踏みしてきた。宮が背でさく舌打ちをする。
こよりは姉の制止を無し、え切って張っていた俺のを、躊躇することなく両で包み込んだ。
触れった皮膚から、彼女の指先が氷のようにたくなっているのが伝わってきた。息を切らしてここまでってきたはずなのに、だけが凍りついている。
「、たい……。いつからここにいたんですか?」
こよりの絞りすような問いかけに、俺はただ息を呑むことしかできなかった。どれほどの、こののでち竦んでいたのか、の覚すら失われていた。