"遺体の上で眠り続けた十四年" 第4話
棟梁が腰を落とし、専用の具を畳の隙に差し込んだ。
ギギギ……と、湿った畳が板から剥がれる鈍い音が響く。
由里は胸騒ぎに喉を締めつけられながら、の入りにち尽くし、その作業を息を呑んで見つめていた。
、夫が真夜に通い詰め、ウイスキーを注ぎ続けたその畳。
その真で、自分は何の疑いもなく眠り続けてきた。
体、このには何があるというのか。
「せーの、持ちげるぞ」
棟梁と若い職が力を込め、真っ黒に変した畳をねげた。
その瞬――
部の空気が、変した。
畳のの荒の杉板、その央の枚だけが、自然なノコギリの跡を残して度切り抜かれ、から釘で雑に打ち直されていた。そして、その板の隙から、烈な刺激臭が吹きがってきたのだ。
それは、ウイスキーのりなどでは到底誤魔化しきれない、の湿り気と、薬品のような異臭、そして――紛れもない、の臭気だった。
「おい……なんだこれ……」
棟梁のが止まった。顔から血の気が引いていく。
バールをに取った棟梁が、釘で留められた荒の板を力任せに引き剥がした。
メリメリメリッ! という材の裂ける乾いた音が部に霊する。
暗黒のが、剥きしになった。
からの微かなが、のの窪みを照らしす。
そこには、の業用ビニールシートが何にも巻かれ、その周囲に量の消と乾燥剤がこれでもかと敷き詰められた、異様な方形の盛りがあった。
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の表面は、から注がれ続けたウイスキーのアルコールによって黒く固まり、まるでの棺桶のように変している。
若い職が、恐る恐る持っていた懐灯のをその盛りに向けた。
ビニールシートの破れ目から、を押し退けるようにして、何かがく突きていた。
「ひっ……!」
職がい鳴をげて尻餅をついた。
懐灯のいの円のに浮かびがっていたのは、に汚れ、肉の削ぎ落ちた、の骨――骨化した腕の骨だった。
そして、その薬指の骨には、のを経てもなお、の汚れを撥ね除けるかのように、たく、青いを放つものがしっかりと嵌め込まれていた。
濁りのない、眩いばかりの輝きを放つ、カラットのダイヤモンドの指輪。
「ああ……あああ……!」
由里はそのに崩れ落ち、喉の奥から声にならない鳴を絞りした。
消えたはずの婚約指輪。
に消えたはずの、神崎怜奈。
彼女はなどにっていなかった。
最初から、この所――自分が、する夫と体をね、々の営みを送り、毎夜まどろんでいたそのベッドの、わずか数センチ真の暗ので、ずっと、ずっと横たわっていたのだ。
同じ刻。
相模湾を望む田原の沿いに建つ、ホスピス病棟の。
午の静かなが差し込む病で、酸素吸入器のチューブをにつけたの老が、ベッドので激しく肩で息をしていた。
島孝、歳。末期の肺がんに侵され、彼の命の灯は、今にも消えようとしていた。
かつて鎌倉の裏通りで、政財界の鎮や法曹界のが夜な夜な集う隠れのような級料理を営んでいた男である。
枕元に置かれた古い話を、老は骨と皮ばかりになった震えるで引き寄せた。
受話器を取るその指先は、迫り来るへの恐怖ではなく、もの、己の魂を焼き苛み続けてきたい字架の圧に震えていた。
プッシュボタンを押す。彼がかけた先は、神奈川県警の捜査課だった。
「……もしもし……警察ですか……」
掠れた、息のから絞りすような老の声が、話回線の向こうへと届く。
「……の…………神崎怜奈さんの……事件のことで……話さなければならないことが……あります……」
受話器の向こうの当直の刑事が、息を呑む気配が伝わってきた。
老は、れゆく識の淵で、のあの凍りつくようなの夜の記憶を、必に繰り寄せていた。
「……佐伯彰先は……警察に嘘を吐いていました……。おが私のをられたのは……の夜なんかじゃなかった……」
老の目から、皺のを伝って涙が零れ落ちた。
「……あのがをたのは……の、午過ぎだったんです……! あの夜、ので……怜奈さんは、佐伯先に激しい剣幕で詰め寄っていました……『あなたがやっていることは犯罪よ。