"少女を救った川の底に、私の元妻がいる" 第7話
文字盤の向こう
夕方、体調のいいには、美穂を子に乗せて川沿いを歩いた。流へこうと言われ、戻り淵まで押していくことがかった。
ある、彼女は岸のの板を見げた。
「直がてたの?」
「ああ」
「ずっと?」
「流されて、て直して。今ので3枚目だ」
美穂はそれ以聞かなかった。帰り、子のろから、頬を伝う涙が見えた。泣いていることに気づかれたくないのか、こちらを振り返らなかった。
別のには、奈緒のことを聞かれた。
「藤田さんの女の子、どうしてるかな」
「岐阜に引っ越してから、会ってない」
「もう、21になるんだね」
美穂は淵を見た。のだった。私たちはまだ、奈緒が町の交番へ来ることをらなかった。
「元気でいてくれたら、がを伸ばしたこと、無駄じゃなかったね」
やっとし、あののことを受け入れられるようになったのだとった。
12のある午、携帯を子のに固定してほしいと頼まれた。由紀に話を録って送りたいという。角度を直していると、ついでに岐阜まで買い物を頼まれた。
「いつものリップクリーム。ここの薬局、もう置いてないんだって」
朝、残りを唇に塗ってやったばかりだった。3軒回って見つけ、帰ってくると、携帯の画面は暗くなっていた。もういい、と言われ、スタンドからした。
晦は、いつもよりく仕事を終えた。
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私は越しそばをべ、美穂には、そのころべられたやわらかな茶碗蒸しを用した。テレビの音を落とすと、くの寺の鐘が聞こえた。
「直」
1語ずつ、息をえながら話していた。
「もう度、夫婦になろうか」
私が顔をげると、美穂のほうが先に笑った。
「今の、冗談」
「本気にした」
「駄目だよ。こんな体で、先もくないのに」
「じゃあ、籍はそのままでいい。ここにいればいいよ。いつまででも」
美穂はく私を見ていた。
「直は変わらないね。何を言っても、いいよって言う」
がけ、3になると、眠っているあいだの呼吸を助けるために、マスク式の呼吸器を使い始めた。やがて昼も、つけているがくなった。
病院では、この先、今の方法だけでは支えきれなくなる能性がある、と説された。気管を切して呼吸器につなぐ方法を選ぶかどうか、美穂も交えて話しいをねた。
切すれば病気が治るわけではない。それでも呼吸を支え、暮らしを続けられるはいるという。声やの伝え方、介助の体制についても説があった。
美穂は、切は望まないと伝えた。
そのころ、私たちは音の文字盤を使っていた。透な板を挟んで向きい、目のきを見ながら1文字ずつ確かめる。正しいときは、彼女がまばたきをした。護師に教わり、ゆっくりなら文章を読み取れるようになっていた。
帰宅した夜、美穂はもう度、文字盤で伝えた。
〈きかんは きらない〉
「を売ってもいい。に頼んで、俺も仕事を減らして。それでも緒にいられるなら」
美穂は目を閉じた。し休んでから、また文字を追い始めた。
〈それは いや〉
「のことなら、気にしなくていい」
彼女は首をかそうとし、かなかった。私は板の位置をし直した。美穂は私の目を見てから、再び文字へ線を戻した。
い文章だった。途で何度か休み、読み違えたところを確かめ直した。最までつなげるのに、30分くかかった。
〈いきが できなくなったら マスクを はずして〉
私は美穂を見た。彼女の線は、まだ文字を探していた。
〈だいていて〉
次の言葉を追う私の声が、止まった。美穂は目をさなかった。
〈そのあと わたしを もどりぶちに しずめて〉