"少女を救った川の底に、私の元妻がいる" 第3話
7歳になったら
「そんなこと、言うなよ」
そう答えると、美穂は線を落とした。私はそれ以聞かなかった。母親をくしたばかりで、疲れているのだとっていた。
その翌、結婚の話を持ちしたのは美穂だった。
夕飯のあと、さなノートを私のに置いた。いたページのに、〈瀬直と結婚する理由〉といてあった。
1、修理代を取ろうとしない。
2、の悪を言わない。
3、約束したことは守る。
4、母さんが気に入っていた。
「美穂は? 俺のこと、好きなのか」
最まで読んでから聞くと、彼女はノートをぱたんと閉じた。
「好きじゃなかったら、4つもかないでしょ」
何でも先に考えて、いておくだった。買い物にはメモを持っていく。貯の目標も、旅の乗り換えもノートにく。結婚式のは、をる刻から親戚への挨拶まで、順番が決まっていた。
ところが、当は朝からひどいだった。迎えのが遅れ、事の席も予定どおりには始まらず、式へ入るときにはドレスの裾を濡らしてしまった。
夜、美穂はベッドのでノートをき、終わった予定に1本ずつ線を引いた。最の項目まで消すと、ようやく笑った。
「まあ、いいか。予定どおりにならないことも、あるよね」
結婚した翌、がまれた。私たちの、たった1の子供だった。
美穂は母親の形見の飾りを、町の計宝飾へ持っていった。
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りいの職に頼み、さなブレスレットに作り直してもらったのだ。内側には、ひらがなで〈いつき〉と刻んであった。
「おばあちゃん、会えなかったからね。これで、そばにいてもらおう」
の首にそっと当てて、そう言った。しきくなるまでは箱にしまい、につけるようになってからも、留め具の位置を直しながら使っていた。
その晩、ノートにしいページができた。
〈がきくなったら〉
3歳、幼稚園。
5歳、ひらがなを読めるように。
7歳、泳。
「泳は、どうして7歳なんだ?」
「学になって、言うことがちゃんと分かるようになったら」
美穂は眠っているの頬に指を当てた。
「川のそばで育つんだもの。泳げたほうがいいでしょ」
が5歳のころ、度、美穂が包丁を取り落とした。刃がに当たる音がして、台所へくと、彼女は自分のを見ていた。ゆっくりと握り、いていた。
「切ったのか」
「ううん。滑っただけ」
その夜、母親の入院の類を引っ張りしていた。何を見ているのか聞くと、最初はどんな症状だったか気になった、と言った。
「包丁を落としたくらいで、考えすぎだよ」
「そうだよね」
うなずいて類をしまったが、しばらく引きしからをさなかった。
10の712、私はを川へ連れていった。7歳になったのだった。隣にんでいた藤田の奈緒が、自分もきたいとついてきた。
あのころの奈緒は12歳で、はいつも、そのあとを追いかけていた。
戻り淵より流にある浅瀬へった。岸くは流れが緩く、私の膝ほどのさだった。ただ、し先で川底が落ち込み、その向こうには淵へ続く流れが見えた。
「ここから先にはかないこと」
2に言い聞かせ、私はのを取ってにつけた。が顔をげるたび、目をこすって笑った。奈緒は岸で、きれいなを探していた。
ポケットの携帯が鳴ったのは、そのときだった。町の客からで、管が破裂した、どうしたらいい、と慌てていた。
に岸へがるように言い、私もをた。川の音で聞き取りにくく、背を向けて話に答えた。元栓の所を説し、相が見つけるのを待った。2分もかかっていなかったとう。
話を切り、振り返った。
さっきまでのいたのに、片方のサンダルが残っていた。
2の姿は、どこにもなかった。