"少女を救った川の底に、私の元妻がいる" 第2話
あのの女の子
「由紀さんは、3か、美穂さんと連絡が取れていないそうです。瀬さんに聞くと、岐阜の友のところへったと」
「ええ。そう聞いています」
「ただ、美穂さんが以んでいた部は、こちらへ戻るに解約されています。由紀さんも、そのご友をらないそうなんです」
私は湯みを置いた。底が受け皿に触れ、さな音がした。
「いつ、をられましたか」
「712です」
「どうやって?」
「友達が、で迎えに来ました」
「その方のお名は」
「聞いていません」
彼女は帳に何かき、しを置いて顔をげた。
「そのころ、美穂さんは歩けましたか」
「支えれば、しは」
言ってから、まずいとった。7の美穂は、もう自分ではちがれなかった。訪問護師が週に何度も来ていた。担当のに確認すれば、それだけで分かることだった。
彼女はそれ以聞かず、帳を閉じた。玄関で靴を履き、へるに振り返った。
「直さん。10の、戻り淵の事故を覚えていますか」
声が、し変わっていた。
「あのとき助けてもらったの、私です。藤田奈緒です」
何も返せないうちに、彼女はをげてていった。
居に戻ってから、いこと座っていた。あのの女の子は、髪を2つに結んでいた。岸の岩に押しげたとき、何度もを吐いていた。それから藤田は岐阜へ引っ越し、会うこともなくなった。
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その子が警察官になって戻り、美穂を捜している。
夕方、音の父親が菓子折りを持って来た。娘は病院で診てもらい、事はなかったという。何度もをげたあと、川へ来た理由を話した。
「SNSで見つけたんです。流に、がきれいでもいない、泳げる所があるって」
「戻り淵ですか」
「ええ。は、そっちにもこうかと……」
「かないでください」
声がくなった。父親がを閉じたので、私はし息をついてから続けた。
「がくなっている所です。何も」
そんなことはいていなかった、と彼は言った。菓子折りは受け取らず、代わりに、その投稿を見たが同じ所へかないよう、危険だと伝えてほしいと頼んだ。彼は何度もうなずいた。
帰っていくを見送っていると、美穂がスーパーのレジにっていたころのことをいした。
会ったのは20だ。私は21歳で、親方について設備の仕事を覚えていた。美穂は19歳だった。
台所のが漏れるというので、野へ修理にった。玄関をけた美穂の向こうに、介護用のベッドが見えた。寝ていたのは彼女の母親で、ALSという病気だと教えられた。筋萎縮性側索化症。私がその名を聞いたのは、そのが初めてだった。
修理には午いっぱいかかった。そのあいだ、美穂は母親の体の向きを変え、事を伝い、汗を拭いていた。
私が声をかけると、母親は目をこちらへかした。
「おいくらですか」
帰り際に聞かれ、私は首を振った。
「今は、いいです」
「どうして?」
「いや、その……」
ベッドのほうを見たのが分かったらしい。美穂は財布をき、千円札を差しした。結局、それを受け取った。
翌、ずれを防ぐマットレスを買って届けた。入りしていた訪問護師に、どんなものがいいか教えてもらったのだ。それからも、ときどき顔をした。子のブレーキを直したり、母親を窓際へ移すのを伝ったりした。何も用がなく、縁側で美穂とお茶をむだけのもあった。
1、母親がくなった。
葬儀の夜、美穂は空になったベッドの脇に座っていた。私が隣に腰をろすと、膝ので両を組んだまま話し始めた。
「最の晩ね、母さん、痰がうまくせなくて。晩じゅう、苦しそうに息をしてた。何かしてあげたくて、でも何もできなくて」
そのの葬儀では、度も泣かなかっただった。
「もう逝かせて、って言いたかったんだとう。ずっと、こっちを見てた。でも、私にはできなかった」
美穂は顔をげ、私を見た。
「もし私も同じ病気になって、母さんみたいになったら、そのときは逝かせて。直には、怖がらずにそうしてほしい」