"少女を救った川の底に、私の元妻がいる" 第1話
川底にいる
のいない川へ泳ぎにくのは、やめたほうがいい。
今の午、川沿いのを歩いていると、女の子が流されているのが見えた。面からさながて、すぐに消えた。岸では母親らしい女性が叫んでいた。
靴を脱いでび込んだ。10のはたく、が肩にまとわりついた。女の子の姿を追って腕を伸ばしたが、指先が届くに、体が横へ持っていかれる。もう度をかき、ようやくその腕をつかんだ。
岸へ戻るころには、に力が入らなくなっていた。差しされた父親のに女の子を預け、私はのに腹ばいになった。をけても、なかなか息が入ってこなかった。
女の子が泣きながら何か言っていた。礼を言おうとしているらしかったが、私は片を振り、両親のところへくように促した。父親が携帯をに当て、母親が着で子供を包んでいた。
助かってよかった。
あの子が沈んでいたら、消防が川を捜すことになる。その拍子に、私の元妻まで見つかってしまうかもしれない。
私は瀬直、41歳。岐阜県の川瀬町で、さな設備をやっている。漏れを直し、古い照を替え、頼まれればどいの掃除もする。板はしているが、仕事の半は昔からの顔なじみに呼ばれてくものだった。
町のを青瀬川が流れている。
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並みが途切れるあたりから流へ2キロほどくと、川が岩壁にぶつかってきく曲がる。そこだけ流れが巻き戻り、い淵になっていた。町のは、戻り淵と呼んでいる。
さは7、8メートル。底にはきな岩がなり、のからは岸が見えていても、なかなかづけない。数に度、誰かが命を落とす所だった。
さっきの女の子は、淵の300メートルほど流で流されていた。
び込んだとき、何も考えていなかった。腕をつかんでから、ようやくった。
今度は、のにいる子供は1だけだ。
もしあのまま流されていれば、救助隊が淵に入る。岩の隙まで調べるだろう。3か、私が美穂を沈めた所も。
靴を履き、濡れた着を抱えて帰った。隣の田辺のおばさんが、庭先でほうきを止めた。
「また川に入ったの。体を事にしなきゃ駄目じゃない」
「子供が流されてたんです」
「助かったの?」
うなずくと、おばさんは胸にを当てた。それから、私の頬のあたりを見た。
「ちゃんとべてる? 美穂ちゃんがいなくなってから、また痩せたでしょう。あの体で岐阜に戻るなんてねえ」
「向こうに、面倒を見てくれるがいるので」
この3か、何度もにした言葉だった。今では相の顔を見ながらでも、つかえずに言える。
に入ると、居の隅に子があった。肘掛けに巻いたクッションには、美穂の腕が収まっていた跡が残っている。
片づけようとったことはあったが、所を変えただけだった。
シャワーを浴び、着替えて腰をろしたところで、玄関のチャイムが鳴った。
戸をけると、若い女性の警察官がっていた。髪をろで束ね、子を両で持っている。
「川瀬交番の藤田と申します。今、川で女の子を助けてくださった瀬さんですね」
居に通すと、彼女の線が子ので止まった。すぐに帳をき、助けた子は音という7歳の女の子で、両親と川辺へ遊びに来ていたのだと説した。
私は聞かれるままに、見たことと、したことを話した。彼女は途でを挟まず、帳にき留めていた。
話が終わっても、ちがらなかった。
「もう1件、お伺いしたいことがあります」
私は湯みにを伸ばした。
「野美穂さんのことです。先週、いとこの井由紀さんから、方者届がされています」