みかん小説
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"昨日の私を着る女" 第6話

いつもツバのい子をかぶるか、絶妙な角度でうつむき、背だけをレンズに晒す。

「目から見れば、私の元同僚の佐伯理が、何か用事があってマンションを訪ねてきているようにしか見えない。もし誰何されても、『佐伯さんの私物』をにつけていれば、警察への通報を躊躇わせる煙幕になる」

私は自分の両をじっと見つめた。

私が選んで、私が気に入って、私がにつけていた。

それらすべてが、見らぬ所で、見らぬ々の記憶のに「ストーカーの記号」として蓄積されている。

「理、気をつけて」

千先輩が私のを握った。

そのは氷のようにたかった。

「あのは、目のためなら平気で嘘を編む。それも、全部が嘘じゃないの。本当のことを割混ぜて、肝な割だけをひっくり返すのよ」

*

曜、私はほとんど眠れないまま勤した。

鈴さんは、淡いグレーのシンプルなアンサンブルニットを着て、誰よりもく社していた。

彼女は私が社するのを見ると、ちがって丁寧にをげた。

「佐伯さん、おはようございます」

その瞳には、侮蔑も、嘲笑も、敵の欠片すら浮かんでいなかった。

ただ、澄んだガラス玉のような無質ながあるだけだった。

私は返事もせず、自分のデスクに座った。

恐怖よりも、胃の底からせりがってくるたいりの方が勝っていた。

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私は、鈴さんのを界の端で追い続けた。

彼女がいつ席をち、誰と話し、どんなメモを取っているのか。

メモ帳の端に、彼女の席とを殴りきした。

10:15 湯(2分) 11:30 郵便物の仕分け 13:45 コピー(総務の類)

自分でも異常な精神状態だと分かっていた。

だが、記録しなければ、いつ自分のが彼女にすり替えられるか分からなかった。

*

曜の朝、フロアにを踏み入れた瞬、異様な既に喉が詰まった。

鈴さんが着ていたのは、のノーカラーのツイードジャケットだった。

フロントに並んだのぶりなボタン、首がわずかに覗く分袖。

先、私が友の結婚式の次会に席するために買い、度だけオフィスにも着てきたものと、も仕てのラインも酷似していた。

鈴さんは朝礼が終わるとすぐに、眉を寄せて田主任のデスクへ向かった。

「主任、申し訳ありません。朝から偏痛が酷くて……午の休をいただいてもよろしいでしょうか」

「ん? ああ、鈴さん、顔が悪いな。無理しなくていいよ。午番でがって病院にきなさい」

田主任は甲斐甲斐しく頷いた。

正午、鈴さんは「お先に失礼します」と儚げに微笑み、フロアをてった。

のツイードジャケットを、丁寧に腕に抱えて。

胸騒ぎが止まらなかった。

デスクのでスマートフォンを握りしめ、業務のに画面を伏せて待った。

午分。

ポケットので、いバイブレーションが度震えた。

千先輩からのLINEだった。

いた画面に、震えるような文字が並んでいた。

『また来た。のジャケットを着てる。 いま、うちのマンションの真の自販のにってる。 もう分もかない。 警察を呼ぶ。もう限界』

添付されていたのは、わずか秒の鮮な画だった。

アパートの階の廊から、真の通りを見ろした映像。

自販売の青いのに、女がっていた。

あののツイードジャケット。

黒い細のパンツに、肩にかかる髪。

女は自販でみ物を買うでもなく、ただじっと、千先輩の部がある方向を見げていた。

指先が凍りついたようにかなくなった。

鈴真由だ。

体調良で退した彼女が、今まさに、私のの輪郭を纏ってそこにっている。

証しなければならない。

私は席をち、に総務の勤管理ボードへ向かった。

フロアの端にある、全員のタイムカードと予定表が収められたラック。

私は鈴さんのタイムカードを抜き取り、裏面の打刻を確認した。

零分、退勤。

予定表のき先欄には、鉛のい跡で『自宅療養』とだけかれていた。

「……佐伯さん?」

背から掛けられたい声に、肩がきくねた。

振り返ると、同じグループの同僚が、怪訝な顔で私を見ていた。

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