"昨日の私を着る女" 第4話
階建ての集宅の階段の踊り。
そこに、の女のろ姿が写っていた。
肩にかかるさの黒髪。
いミルクティーの、ざっくりと編まれたアシンメトリーのローゲージカーディガン。
緑のロングスカート。
そして、肩から斜め掛けにされたキャンバスのトートバッグには、丸まった猫の革製キーホルダーがぶらがっていた。
女は、階の奥の部のドアスコープを、じっと見げるようにっていた。
息が止まりそうになった。
私だ。
誰がどう見ても、そこに写っているのは「私」だった。
顔は見えない。
だが、その装、その持ち物、そのち姿のシルエットは、私が先週まで毎繰り返していた常そのものだった。
「……これ、私じゃありません」
唇が震え、うまく言葉が紡げなかった。
「私じゃありません……私、曜は定まで会社にいて、そのは真っ直ぐ自宅に——」
「先週も同じことを言ってたそうじゃない! 管理さんが声をかけたら、逃げるようにちったって!」
女の目は完全に私を審者として捉えていた。
「あなた、藤井さんの元同僚の佐伯さんでしょ? 千から聞いてるわよ。会社に相談しても『そんなはずはない』の点張りだって。いい加減にしなさいよ、警察を呼ぶわよ!」
「呼んでください!」
私は叫んでいた。
駅の雑踏ので、自分の声だけがずって響いた。
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「警察を呼んで、防犯カメラを確認してください! 私にはアリバイがあります! その、私はそこにいません!」
私の必の剣幕に気圧されたのか、女はわずかに怯んだように眉を寄せ、掴んでいた私の腕の力を緩めた。
「……本当に、あなたじゃないの?」
「絶対に違います。私、千先輩に危害を加える理由なんて何もありません」
女はまだ疑を捨てきれない目をしていたが、ゆっくりとスマートフォンを引っ込めた。
「……じゃあ、あのアパートの周りをずっとうろついて、千のを郵便受けから抜き取ろうとしていた女は、体誰なのよ」
女は吐き捨てるように言うと、混みのへとで消えていった。
千の母か、あるいは親族だったのだろう。
私は改札横の柱に背を預け、たくなった属の触に耐えながら、荒い息を繰り返した。
ので、バラバラだったピースが急速に、つのグロテスクな絵を描き始めていた。
鈴真由。
彼女が毎着ていた、私の「昨の」。
あれは、私への嫌がらせでも、歪んだ憧れでもなかった。
くから見ているに。
防犯カメラのい解像度に。
そして、千先輩の周囲のに。
『佐伯理が、執拗に千のアパートを徘徊している』
そう誤認させるための、くダミー。
彼女は、私というの輪郭をまるごと着ぐるみのように被って、千先輩のアパートに通っていたのだ。
震える指でスマートフォンを取りし、LINEの連絡先をいた。
半以やり取りの途絶えていた、藤井千のアカウント。
通話ボタンを押した。
呼びし音が回鳴り、に途切れた。
「……もしもし、理?」
受話器の向こうから聞こえてきた千先輩の声は、記憶にあるるいトーンとはまるで別のように、掠れて疲れ切っていた。
「先輩、急にすみません。今、駅で先輩のお母様……らしき方から声をかけられて」
私は過呼吸になりそうな胸を押さえながら、今起きたこと、そしてここ数週の社内での来事を、点だけを気に捲してた。
誰かが私のを真似していること。
その格好で、先輩のアパートの周りをうろついていること。
私の話を聞いている、話の向こうの千先輩は、ただの度も相槌を打たなかった。
のような沈黙だけが、秒以も続いた。
「……先輩?」
やがて、受話器から微かな、乾いた息を吸い込む音が聞こえた。
「理」
千先輩の声は、く、震えていた。
「あなたたちの会社に、先しく入ってきた……」
彼女はそこで言葉を切り、耐えかねるように続けた。
「その、鈴真由っていう名じゃない?」
全から血の気が引いていくのが分かった。
「……ってるんですか? 鈴さんのこと」
千先輩は答えなかった。
ただ、受話器越しに、歯の根がわずにガチガチと鳴る微かな音が伝わってきた。
「見つかったんだ」