"「ここは新妻の家」と笑う義母へ突きつけた、青い契約書" 第5話
「もちろんよ。すわ」
受話器を握る姉の声が、静かに、そして鋭くくなった。
「由美。あいつらは、あなたが週病院からけないとを括っている。……、退院したらそので、私たちの『』へってみましょうか」
退院の朝、病院の自ドアを抜けた瞬、初のぬるいが頬を撫でた。
腹部の縫痕が、歩くたびに微かに引きつる。 けれど、隣で私の腕をしっかりと支えてくれている姉・真紀の体温が、折れそうになる膝を辛うじて支えていた。
「由美、痛むなら言ってね。無理に急ぐ必はないんだから」 「平気。これくらい、なんてことない」
姉の軽自の助席に乗り込み、シートベルトを締める。 窓を流れる京の並みは、いつもと何も変わらない。 ただ、私の活の台だけが、音をてて崩れ落ちていた。
は港区寄りの運沿いに建つ、見慣れたマンションので止まった。 エントランスを見げる。 壁のタイル、入れされたエントランスの植栽。 15、まだ若かった私が、で産を何軒も回り、審査の類をき集めてようやくに入れた部。
「くわよ、由美。絶対に揺しちゃダメ。事実だけを突きつけるの」 姉が部座席から、革のビジネスバッグを取りした。 には、15に交わされた賃貸借契約の原本と、これまでの賃引き落とし細の束が入っている。
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エレベーターが8階で止まる。 静まり返った共用廊を、音を忍ばせてんだ。 803号。
ドアノブにをかける。 鍵穴に鍵を差し込む指先が、わずかに震えた。 カチリ、とい属音が鳴り、鍵はあっけなく回った。 まだ鍵は変えられていない。
ドアを数センチけた瞬、むっとするような甘い料の匂いがをついた。 私が用していた無料の空スプレーの匂いではない。 っぽい、柑橘系のディフューザーの匂い。
玄関に歩を踏み入れた瞬、私の界がぐらりと揺れた。
たたきの。 私の黒い通勤用パンプスのすぐ隣に、見らぬベージュのフラットシューズが並んでいた。 妊婦用の、かかとがく柔らかいスニーカー。 傘てには、私が買ったことのない柄の傘が無造作に突っ込まれている。
そして、シューズラックの。 くなった母が好きだった備焼の輪挿しはの隅に追いやられ、代わりに物のベビーカレンダーと、産祈願のお札が堂々と飾られていた。
……息が、止まりそうだった。
靴を脱ぎ、リビングへと続くすりガラスの引き戸にをかける。 奥から、湯気のつ音と、軽やかな笑い声が漏れ聞こえてきた。
「美穂さん、あんまりいちゃダメよ。佐藤の事な跡継ぎなんだから、座ってなさい」 「お義母さん、すみません、ありがとうございます。
スープ、すごく美しいです」
ガラリ、と音をてて引き戸をけた。
リビングの空気が、瞬で凍りついた。
ダイニングテーブルの主席。 いつも私が座っていた所に、ふっくらとしたお腹を抱えた若い女――美穂が座っていた。 その女が羽織っていたのは、私の部のクローゼットに掛けてあったはずの、私のお気に入りのカシミアのカーディガンだった。 には、母が私の誕に買ってくれたマグカップ。
キッチンのにち、果物ナイフを握っていた義母・子が、信じられないものを見るような目で私を見いた。
「……は?」
義母のから、持っていたりんごがまな板のに転がり落ちた。
「ゆ、由美さん……? あんた、なんでここにいるのよ」 義母の声が擦る。 「退院は来週のはずでしょう! なんで勝に抜けしてきてるのよ!」
勝に抜けした? 自分のに帰ってきたに向かって放つ言葉だろうか。
「体調が定したので、医師の許を得て今退院しました」 私は努めて淡に、く告げた。 「それより、お義母さん。そのは誰ですか。なぜ私のを着て、私の器を使っているんですか」
私の問いかけに、女――美穂は怯えたように目を丸くし、慌ててカーディガンの胸元をかき抱いた。 「あ、あの……」
だが、義母がすかさず美穂のにちはだかり、私を睨みつけてきた。
いつもの、あの見すような醜い表だった。
「誰ですか、じゃないでしょう! 浩司からメッセージが届いているはずよ! このは美穂さん。