"「中絶して逃げた」元妻が連れていた、七歳の双子" 第17話
「拓! 美咲! を見て!」
トラックの脇から、よく通る声がんだ。 由美だった。 靴を履き、古いダウンジャケットのポケットに両を突っ込みながら、子供たちのりにわせてりで移している。
拓が、息を乱しながらトラックを周回してくる。 ぬかるんだグラウンドのコーナーで、拓のが滑りかけた。
「あ……」 私はわず、壁から半歩びした。
だが、拓は倒れなかった。 がねて体操着の膝を汚したが、歯をいしばり、をる子を追いかけようと必に面を蹴った。 その表を見た瞬、私の目の奥が、く焼けるように痛んだ。
い子だ。 父親のなどものともせず、この子は自分ので、しっかりとを踏みしめてっていた。 由美が、そう育ててくれたのだ。 にまみれながら、に頼らず、真っ直ぐにを向いてきる子に。
拓がゴールラインを駆け抜けた。 順位は真んくらいだったが、由美の元へ駆け寄る拓の顔には、やり切った誇らしげな笑みが浮かんでいた。
続いて、美咲が戻ってきた。 最尾にかったが、涙を浮かべながらも、度も歩くことなく最までり切った。 由美がしゃがみ込み、美咲のさな体を力いっぱい抱きしめるのが見えた。
私は、非常階段ので、静かに胸を撫でろした。 それだけで分だった。
広告
が元気にり、母ので温められている。 その景をくから見届けられただけで、私の失ったキャリアなど、あまりにもい代償だった。
踵を返し、解けでぐちゃぐちゃになったへと歩きした。 が吹き抜け、濡れたスーツが体温を奪っていく。
「……佐藤さん」
背から、呼び止められた。
臓がねがった。 振り返ると、傘も差さずに、由美がっていた。
し息を切らし、ダウンジャケットの襟元にを乗せている。 メートルほどれた舎の軒では、真理さんが拓と美咲のウインドブレーカーを着替えさせているのが見えた。
「……由美」
「どうして、スーツがそんなに濡れているんですか」 由美の瞳が、私のだらけの革靴と、でくなったコートを真っ直ぐに見据えていた。
「会社は……仕事は、どうしたんですか。今は平じゃないけれど、曜からトラブルがあったって、昨真理のところに会社の同僚の方から連絡が入っていました」
由美の広い脈と、かつての職の繋がりだ。 私がトラブルの渦にいることは、筒抜けだったのだ。
「問題ない」 私はできる限り平然とした声を作った。 唇が寒さで震えそうになるのを、奥歯を噛み締めて抑え込む。
「引き継ぎは全部済ませてきた。役員会は別の担当が代理でている」
由美の眉が、かすかにいた。
「あなた、自分のがどうなるか分かっていて、ここに来たんですか」
「……ああ」
「どうして」 由美の声に、わずかな苛ちと、それ以の困惑が滲んだ。
「は、私の切迫流産よりも、母親の嫌取りと自分の仕事を優先したじゃない。世がかかっていたんでしょ? なんで、たかが学の持久会なんかのために、棒に振るような真似をするのよ」
が、ののたいアスファルトに落ちては、静かに溶けて消えていく。
「たかが、じゃない」 私は、由美の目を逃げずに見つめ返した。
「あの子たちのを、俺は度も見てこなかった。初めての運会も、入学式も、をして苦しんだ夜も、全部仕事と保を言い訳にして逃げてきた」
たいが、濡れた髪を揺らす。
「もう度と、あの子たちとの約束を、仕事のせいにしたくないんだ。たとえ会社をクビになっても、あの子たちがる姿を、この目で見る権利を放棄したくなかった。……それだけだ」
由美は唇を真文字に結び、線を私の胸元へと落とした。 い沈黙。 霙のる音だけが、庭のくから微かに聞こえていた。
やがて、由美はふっと、さく息を吐きした。 そのい息は、の空気に溶けてすぐに消えた。
「……馬鹿な」
刺すような毒は、その言葉には含まれていなかった。
「そんなことをしても、私はあなたとやり直す気なんて、これっぽっちもありませんから」
「わかっている」
「私は、あなたを許したわけじゃない。