"「中絶して逃げた」元妻が連れていた、七歳の双子" 第14話
父の位牌にをわせることすらしなかった。 このに残るすべてのものが、嘘と共犯の記憶で汚れていたからだ。
玄関へ向かう廊を歩く。 背から、母がさく啜り泣く声が聞こえていたが、私は度も振り返らなかった。
い玄関の引き戸をけると、正午のい陽射しが網膜を焼いた。 温い初のが、線の匂いに染まった私のシャツを通り抜けていく。
、私の肺を押し潰していた見えない檻が、音をてて崩壊していた。 息が、吸える。 驚くほどく、空気が胸の奥まで入ってくる。
だが、それは解放ではなかった。 ただ、自分の犯した罪のさを、誰のせいにもできずに背負い続けるための、孤独なスタートラインにっただけだった。
。
私は、庭裁判所に併設された「面会交流援助センター」の待にいた。
法律に基づき、子どもの精神負担を最限に抑えるために用された、第者関の面談施設。 無質なパーテーションで区切られた廊に、消毒液の匂いがかすかに漂っている。
浩司を通じて由美の弁護士と交渉をねた結果、認届の提と公正証の作成を条件に、に度、この施設内でのみ、子供たちと「面会」することが許されたのだ。
ただし、由美からの条件は極めて厳格だった。 『父親と名乗らないこと』。
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『子供たちが拒絶したは、即座に止すること』。
「佐藤さん、どうぞ」
女性の理士に促され、私はちがった。 スーツのシワを何度もで伸ばし、乾ききった唇を舐める。
胸ポケットには、子供たちへのプレゼントは入っていない。 由美から、物品の受け渡しは切禁止されていた。 ぶらの両が、所なげにたく張る。
面談のドアのにつ。 案内板には『面談B』とだけかれていた。
「丈夫ですか?」 理士の問いかけに、私はさく頷いた。
ドアノブにをかける。 属のたさが、のひらを通して臓まで伝わってくるようだった。
ゆっくりと、押しけた。
畳ほどのフローリングの部。 丸テーブルを挟んで、パイプ子が脚。
そこに、由美が座っていた。 濃紺のシンプルなブラウス。 と変わらない、ピンと伸ばされた背筋。
そして、その両脇に。
拓と、美咲がいた。 とも、私が入ってきた瞬に、由美の腕にキュッとしがみついた。
男の子――拓は、母親のからを乗りし、私を真っ直ぐに睨みつけていた。 歳とはえないほど、く、鋭い差し。 さな両は固く握りしめられ、今にも私を突きばそうとするかのような、剥きしの敵に満ちていた。
その黒い瞳に映る私は、「父親」などではなかった。
母親を泣かせ、平穏な世界を脅かしにやってきた、憎むべき侵入者。
その線を受け止めた瞬、私の喉の奥がヒュッと引きつった。
「こんにちは」
私の絞りした挨拶は、静まり返った部の空気のに、々しく落ちた。
拓は言も返さず、唇を噛み締め、さらにく由美の腕を引き寄せた。 その瞳の奥のたい炎が、私というのそのものを、厳しく拒絶していた。
公証役のい樫ののドアを押しけたとき、かすかに古いと朱肉の匂いがをついた。
机を挟んで、公証が淡々と鏡のブリッジを押しげる。 目のには、と黒の活字で然と組まれた文。 『婚付等契約公正証』。
「……第〇条、甲は乙に対し、男・拓、女・美咲の養育費として、満歳に達するまで、毎万円を各末限り、乙の指定する融関の座に送して支払うものとする」
公証の乾いた声が、静かな内に響く。
「第〇条、甲が条の銭債務を履しないときは、直ちに制執にする旨を陳述した」
制執認諾文言。 もし私がでも支払いを怠れば、裁判を経ずして私の与と座は差し押さえられる。 私が自ら希望して、浩司に組み込んでもらった条項だった。
「佐藤さん、内容に相違はありませんね」
私はく息を吸い、迷わず実印を握った。
朱肉を吸い込ませ、の指定された欄へ垂直に押し当てる。
指先から伝わるたい抵抗。 鮮血のような赤い円が、私の逃げを法に完全に塞いだ。