"「中絶して逃げた」元妻が連れていた、七歳の双子" 第1話
「佐藤拓くん、美咲ちゃん。待へどうぞ」
総病院の児科エリアに、護師のアナウンスが響いた瞬だった。
私の隣で、定期検診の予約票を握りしめていた母の肩が、目に見えてねがった。
……え?
聞き覚えのある名字。 そして、かつて私が、もしまれてくるならとノートの隅にき殴っていた名。
血の気が引く音が、自分のの奥でゴウと鳴った。
線を巡らせた先に、あの背があった。 褪せた紺のカーディガン。 し猫背になった、華奢な肩。 。 どれだけが経っても、忘れるはずがなかった。 元妻の、由美だ。
由美の両脇には、同じ背丈のさながつ。 お揃いの黄い通学を膝に抱えた、男の子と女の子。 「拓、美咲、くよ」 静かで、しハスキーな声。 ちがった男の子の横顔が見えた瞬、私の喉からヒュッと空気が漏れた。
実の仏壇の引きしにある、私の歳の頃の写真。 あのアルバムからそのまま抜けしてきたかのような、見慣れた目元と眉の形。
「由美……?」
無識にがき、声を絞りそうとした。 だが、それよりもく、私の腕をすり抜けて突していったがあった。
母だった。 普段は膝が痛いと杖をついているはずの歳の女が、信じられない速度で通を横切る。
「あんた、どうしてここにいるのよ?!」
待の空気が、瞬で凍りついた。
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絵本をめくる子供のが止まり、親たちの線が斉に突き刺さる。
由美の体が張った。 振り返った顔から、瞬にすべてのが抜け落ちていく。 由美は鳴すらげず、本能のように両を広げ、の子供を自分の背に隠した。
「母さん、やめろ!」 私が駆け寄るよりく、母の甲い、濁った声が静寂を切り裂いた。
「あの子たちを連れて、このからてけって言ったはずでしょ! なんでまだウロついてるのよ!」
……は?
私のが、リノリウムのに縫い付けられた。 臓が、肋骨の内側を鋭利な刃物で叩かれたようにねる。
を、ろ? あの子たちを、連れて?
「……母さん」 乾ききった唇から、掠れた声がこぼれた。 「今、なんて言った?」
母はハッとに返ったように息を呑み、両で自らのを塞いだ。 泳ぐ線。 額に浮かぶ脂汗。 瞳の奥に広がったのは、らかな揺と、取り返しのつかない失言への恐怖だった。
「ち、違うのよ、健。違いよ、あの女が……あの棒猫が、またあんたからおを巻きげようと待ち伏せを――」
「違いではありません」
ややかな声が、母の嘘を両断した。 由美だった。
背に隠した子供たちのさなが、由美のスカートの裾を必に握りしめている。 男の子は怯えた目で私を凝し、女の子は由美の腰に顔を埋めて刻みに震えていた。
由美の瞳には、かつて私に向けられていた温もりなど欠片も残っていなかった。
りですらない。 汚物を見るかのような、絶対な拒絶。
「佐藤さん。お久しぶりです」
私の名字を呼ぶ声に、わずかな震えもない。 ただ、その指先がくなるほどく、子供たちの肩を抱きしめていた。
「由美、その子たち……、おは……」 おろしたんじゃなかったのか。 の男と、子どもを処分して逃げたんじゃなかったのか。
喉元までかかった言葉は、目のの男の子の顔を見た瞬に、すべて散した。 の子であるはずがなかった。 DNA鑑定などするまでもない。 鏡を見ているかのように、私の幼期そのものの輪郭がそこにあった。
「あなたにお話しすることは何もありません」 由美は母から線をし、私だけをたく見据えた。
「度と、私たちのに現れないでください」
「待ってくれ! 説してくれ、俺は何も――」
「お名をお呼びしておりますので、失礼します」
由美は私を完全に無し、子供たちのを引いて待の扉の向こうへと消えた。 自ドアが閉まる直、男の子がもう度だけ私を振り返った。 その黒い瞳に宿っていたのは、見らぬへの、剥きしの警戒だった。
取り残された児科の廊。 周囲からのたい線が、針のように突き刺さる。
私はゆっくりと、隣でち尽くす母を見ろした。 母は必に呼吸をえながら、すがるように私のスーツの袖を掴んできた。
「健、こう。