"結婚記念日に渡された電車の片道切符" 第11話
私の名字は、旧姓の「森脇」に戻った。
スーパーの物流管理部での仕事は相変わらず忙しい。
トラックの配ミスにを抱え、特売品の庫を巡って舗のと話で激論を交わし、夕方にはクタクタになってスーパーの見切り品コーナーに寄るもある。
持ちになったわけでも、ドラマのような劇な成功をに入れたわけでもない。
々の費を計算し、気代の請求に目を細め、娘の制代を振り込む現実がそこにある。
けれど、通帳の数字も、部の空気も、すべてが私自の責任で、私のの届く範囲にあった。
誰の嫌を伺う必もない。
誰かの嘘に怯えることもない。
ただそれだけのことが、これほどまでに胸をく満たしてくれるものだとは、15らなかった。
休暇を3取り、私は羽田空港にいた。
元にあるのは、スマートフォンに表示された搭乗券の次元コード。
目は、千歳空港。
あの結婚記の、夫に奪われ、捨てられた所だった。
今回は、誰かの顔を窺って選んだ級リゾートでも、誰かが浮気の隠れ蓑にしたスイートルームでもない。
千歳から速エアポートに乗り換え、私は樽へと向かった。
まだの残る運沿い。
たいが頬を刺す。
運を見ろすさな喫茶の窓際の席に座り、私は温かいブレンドコーヒーを両で包み込んだ。
広告
が、静かにガラス窓を叩いては消えていく。
テーブルののスマートフォンが、く震えた。
画面をくと、見らぬ番号からのショートメッセージだった。
番号の数字の並びで、すぐに直からだと分かった。
美咲経由で、私がへ旅にたことを聞きつけたのだろう。
『、寒くないか? 体に気をつけて』
画面に浮かぶ、たったの文字。
かつてなら、その気遣いの言葉にすがりつき、涙を流していたかもしれない。
けれど今の私のには、りも、みも、しみすら湧いてこなかった。
ただ、通り過ぎたの窓を眺めるような、完全な無関があるだけだった。
私は返信ボタンを押すこともなく、そのメッセージを静かにゴミ箱へスワイプし、連絡先を完全に削除した。
コーヒーをむ。
苦の奥に、確かな甘みがあった。
15、私は誰かと緒にゲートをくぐることが、されることの証であり、幸せなのだとい込んでいた。
でも、今は違う。
チケットに印字されているのが自分の名であっても、
き先を決めるのも、
ち止まるのも、
びつを選ぶのも、
すべて私自の志だ。
私はコートの襟を直し、席をった。
のドアをけると、の混ざったたいが吹き込んできた。
く息を吸い込む。
肺の奥まで澄み渡るような気が、私のしいの始まりを告げていた。