"結婚記念日に渡された電車の片道切符" 第8話
男の甘言に乗っかって甘い汁を吸っていた女は、現実の法の続きがきした瞬、あっさりと男の背をナイフで刺したのだ。
夫が守りたかった「莉奈のでのプライド」など、最初からこの程度の砂の楼閣だった。
曜の午6。
本社オフィスの自ドアを抜け、駅へと向かう波のにを踏みした。
11のはたく、の並にはくもイルミネーションの球が巻かれ始めている。
「由美!」
に、背から掠れた声で名を呼ばれた。
ち止まり、振り返る。
駅広の植え込みのから、の男がよろめくように歩み寄ってきた。
直だった。
最に顔をわせてから、まだ1ヶも経っていない。
だが、目のにつ夫は、まるで数も歳をとったかのようにやつれ果てていた。
仕ての良いはずのスーツの膝は抜け、靴の爪先はで汚れている。
何より、そのには――違いなほど巨な、真のバラの束が抱えられていた。
「由美……待ってくれ、話があるんだ」
直は息を荒らげ、束を私に突きすように差しした。
周囲の帰宅客が、奇異の目を向けて通り過ぎていく。
「これ、受け取ってくれ。……お、バラが好きだったろ? 昔、プロポーズしたに渡したやつだ」
束を包むセロファンが、がさがさと音をてる。
私は歩もかず、たい目でそのを見つめた。
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「何の真似?」
「悪かった! 俺が全部悪かったんだ!」
直は通の線も構わず、をげた。
その姿には、かつての尊な課の面など微もなかった。
「莉奈とは完全に終わった! あいつ、俺がに困った途端にのひらを返しやがって……俺を騙してたんだ! 本当に俺をしてくれてたのは、おだけだったんだよ!」
「……」
「頼むから、に戻らせてくれ。美咲にもちゃんと謝る。もう度と浮気配なんてしない。今までの活に戻ろう、由美。おが毎作ってくれた飯が……温かい噌汁が、どれだけありがたかったか、になってようやく骨に染みたんだよ!」
必にすがりついてくる夫の言葉。
そのどれもが、あまりにも勝で、吐き気がするほど汚れていた。
この男が求めているのは、私ではない。
自分のワイシャツにアイロンをかけ、くて美い飯を毎卓に並べ、散らかした部を黙って掃除し、自分の見栄のために財布をいてくれる――「便利な活の管理」だ。
「直」
私は、く落ち着いた声で遮った。
「あなた、私が今、どこでどんな仕事をしてるかってる?」
夫はぽかんとをけた。
「え……? スーパーの……本部だろ? 伝票の理とか、お茶汲みとか……扶養の範囲でやってるパートみたいなもんだろ……?」
私はバッグのファスナーをけ、名刺入れから1枚のカードを抜き取った。
夫の胸元へ、まっすぐに差しす。
そこには、スーパーチェーンの本社ロゴとともに、私の名が刻まれていた。
『商品統括本部 舗発・物流管理部 課補佐 佐藤由美』
夫の目が、名刺の文字に釘付けになった。
指先が微かに震える。
「……か、課補佐……? おが……?」
「2に昇したの。美咲が学にがったタイミングで、契約社員から正社員登用の試験を受けてね。あなたに何度も話そうとしたわよ。『事な話があるの』って。でもあなたはいつも『パートの愚痴なんか聞く暇ない』って、見向きもしなかった」
夫の喉が、ヒッとさく鳴った。
「あなたが莉奈さんと箱根にってた週末、私は物流センターの夜トラブルの対応に追われてた。あなたがホテル代を私のカードで切ってた、私は来期の予算を作ってたのよ」
私は名刺を引っ込め、夫が差ししていたバラの束をで押し戻した。
「あなたは15、私の顔なんて度も見ていなかった。私というのを見ていたんじゃなくて、自分に都のいい『無で無力な女』をに縛り付けて、見してしていただけよ」
「由美、それは……違う、俺はそんなつもりじゃ……」
「もう遅いわ」
私はバッグから、弁護士から渡されていた封筒を取りした。
裁判所から発された、婚調の呼状の控え。
「調を申してました。
来の第2曜、庭裁判所に来てください」
「調……!? おい、話しいで済むだろ! 族の問題を、なんでに晒すんだよ!」