"結婚記念日に渡された電車の片道切符" 第3話
『由美、頼む! とりあえず今夜の分だけでいいから! 帰ったら全部説する! 莉奈ので、俺の顔を潰さないでくれよ……!』
声から転して、見苦しい願に変わった。
この男は、羽田空港で私を突き放したときのことなど、もう綺麗さっぱり忘れているらしい。
自分の都が悪くなった瞬だけ、私を「財布を握る都の良い妻」の座に引き戻そうとしている。
「直」
私は、氷のようにたい声で言った。
「羽田のロビーで、あなたは私に何て言った?」
『……え?』
「『おを連れてったら恥をかかせる』『ビジネスの現なんて分からない無職同然の妻』……そう言ったわよね」
話の向こうが、息を呑むように静まり返った。
「どうして支払いのだけ、私のことを妻だといすの?」
『由美、お……!』
「莉奈さんに払ってもらえばいいじゃない。あなたの派なお仕事のパートナーなんでしょう?」
『ふざけるな! おい、切るな、由美! 切ったら承しな――』
ツーツー、と無質な子音が響いた。
私は通話を切り、端末を裏返してテーブルのに置いた。
臓は鐘のように打っていたが、議と悔はなかった。
1分、メッセージの通が1件届いた。
『京に戻ったら、絶対にただじゃおかないからな』
画面に浮かぶ夫の言葉を見つめながら、私はさく息を吐いた。
15、私が支えてきた庭という名のハリボテが、音をてて崩れ落ちていく。
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だが、胸の奥底にあった淀んだみは、すでに消えっていた。
曜の夜、夜1過ぎ。
玄関の鍵が、乱暴に回る音がした。
ドサリといスーツケースががり框に叩きつけられる。
ため息混じりの荒い息遣い。
夫の直が、から帰ってきたのだ。
私はリビングのダイニングテーブルに座ったまま、元のお茶をすすった。
気をつけたままで待っていた私を見て、夫は靴を脱ぎ散らかしながら、顔を真っ赤にして鳴り込んできた。
「由美!! お、よくもあんな真似をしてくれたな!!」
ネクタイを乱暴に引き抜き、に放り投げる。
札幌の寒空ので何があったのか、目で分かった。
いつものえられた横分けの髪は乱れ、目のにはどす黒い隈が張り付いている。
「フロントので、俺がどれだけ恥をかいたか分かってんのか!? 『カードが通らない』『残だ』って、莉奈ので赤っ恥をかかされたんだぞ!」
「……おかえりなさい」
「おかえりなさい、じゃないだろ!!」
夫はダイニングテーブルを拳で叩いた。
陶器の湯呑みがカタカタと震える。
「莉奈が呆れて、先に自分の部へ戻っちまったんだよ! 結局、俺は同期のやつに夜にげてPayPayで送ってもらって、翌はビジネスホテルに格げだ! 課の俺が、部に惨めな姿を晒して……お、俺のプライドをどこまで傷つければ気が済むんだ!?」
喚き散らす夫のから、微かに残るアルコールの臭いと、女物の甘ったるいの匂いが漂ってきた。
私は何も言い返さず、テーブルの端に積んでおいた類を、夫の目のへ滑らせた。
バサリ、と乾いた音が落ちる。
「……何だこれ」
「過半の、私の名義のクレジットカード細。それから、あなたの張届の控えよ」
夫の眉がピクリとねた。
面には、黄の蛍ペンで引かれた無数の線。
週末の箱根温泉旅館、座のフレンチ、表参の級ブティック、そして先週の札幌のスイートルーム。
「仕事で使ったって言い張るなら、経費精算のコピーも見せて。会社の領収、全部あなたが持って帰ってるはずよね?」
「それは……急な接待だったり、打ちわせの準備だったりだな……」
「曜の夜に、箱根で2名分のフルコースをべる接待があるの?」
夫の言葉が喉に詰まる。
線が泳ぎ、額にじっとりと脂汗が浮きた。
だが、この男のプライドは、謝罪よりも先に逆ギレを選んだ。
「……あいつとは、ただ仕事の相談に乗ってただけだ! ちょっと息抜きに付きってもらっただけだろうが! なんでそこまでネチネチ嗅ぎ回るんだよ!」
「私の座から引き落とされる族カードを使って、息抜き?」
「で返すつもりだったんだよ! て替えてもらってただけだ! それをおがいきなりカードを止めるから話がややこしくなったんだろ!」
夫は胸を張り、見すような目で私を指差した。