"断髪の夜に消えた七年目の花嫁" 第14話
「……そんな些細なことまで……」
織の胸が、じんわりと温かくなった。
「族の好き嫌いは、アレルギーからの濃淡まで全部覚えていたのに……私の好物や苦なものをっているは、これまで誰もいませんでした」
蓮は真剣な差しで、織の目をまっすぐに見つめた。
「さなことだけど、とても事なことだよ。……これからは、俺に全部ゆっくり教えてほしい。好きなものも、嫌いなものも、疲れたとか、ったとか、君の全部を」
織の瞳から、温かい涙が筋こぼれ落ちた。それはしみの涙ではなく、凍りついていたが溶けしていく証だった。
翌の。 爽やかなれの曜、郊の広な芝公園では、関支社の社員たちによる族ぐるみのピクニックが催されていた。
しれたのベンチに、昭男と佳代子、そして美結の姿があった。 同僚のSNSに投稿された公園の写真を頼りに、居てもっても居られずに幹線に乗ってやってきたのだ。だが、声をかける勇気など誰にもなかった。
広の央では、とりどりのレジャーシートが広げられ、織が仲たちに囲まれて座っていた。 ショートヘアは綺麗に伸び、柔らかなボブスタイルになった織は、の漏れので、見たこともないほど眩しい笑顔を浮かべていた。
「織さん、カボチャのポタージュスープ作ったよ。
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胃に優しいから、温かいうちにんで」
蓮が保温ポットからスープを注ぎ、織に渡す。周囲の同僚たちも、果物を剥いて差ししたり、楽しそうに笑いっている。
に、通りかかった子供が転び、織のスカートにジュースがねた。 で見つめていた昭男と佳代子の息が止まる。 だが、周囲の同僚たちは誰として笑わなかった。蓮はすぐに自分のハンカチを取りして織の膝を拭き、子供の母親が駆け寄ってくると、織は優しく子供のを撫でて「丈夫よ」と微笑みかけた。
「……あの子、あんなに笑うのね」
佳代子がハンカチを目元に押し当てて泣き崩れた。
「母親の私が……あの方たちほど、あの子を切にしてやれなかった……」
昭男は固く拳を握りしめ、目を伏せた。
「こう。……あの子の笑顔を、俺たちが壊す権利はない」
その、広の央で歓声ががった。 蓮がちがり、織のに膝をついていた。差しされたさなベルベットの箱のには、のを反射して輝く指輪があった。
『織さん。僕と緒に、これからのすべての季節を歩んでくれませんか』
織は両で元を覆い、涙を浮かべながら、く、力く頷いた。 広が割れんばかりの拍と祝福の声に包まれる。
公園のへと向かうすがら、美結は度だけち止まり、くの姉の姿を振り返った。
「……お父さん。私、お姉ちゃんに言だけ、おめでとうって言いたかったな」
昭男はち止まることなく、を見つめたまま静かに首を振った。
「あの子に、俺たちの祝福はいらん。あの子に欠けていたのは、俺たちがもっとくに与えるべきだった『尊』だ。だが、もう遅れなんだよ」
美結は唇を噛み締め、涙を拭った。
「……私が髪を切ったあの、私はお姉ちゃんを失ったんだね」
「違う」
昭男の声が、微かに震えていた。
「あのじゃない。あの子が傷つくとっていながら、族全員で何度も刃を向け続けた、あのいので……俺たちが自ら放したんだ」
の背に、乾いたが吹き抜けていった。
数か。 関の格式ある教会の控で、織は純のウェディングドレスにを包んでいた。 鏡のの自分は、かつて誰かのために伸ばし続けたい髪ではなく、自分自のためにえられた美しい姿で微笑んでいた。
ノックの音が響き、郎の蓮が入ってくる。
「織、すごく綺麗だ」
「ありがとう、蓮さん」
織はちがり、蓮の差し伸べたをしっかりと握り締めた。
かつてはっていた。とは、理尽に耐え、相の嫌を損ねないように自分を殺し続けることなのだと。 だが、違った。 本当のとは、相の痛みに向きい、を尊し、さに寄り添い、対等なとして共に歩むことなのだ。
自分の涙を嘲笑うようなを、と呼んではいけない。
切なを切にできると会い、織は今、ようやく胸を張って、自分自のをせるようになっていた。
チャペルの扉が静かにき、祝福のがを包み込んでいった。