"断髪の夜に消えた七年目の花嫁" 第5話
「おい、織。まだってんのか? もういい加減にしろよ。昨、美結ちゃんがおの顔が怖くて寝になったって怯えてたぞ」
織はを止めず、本棚から業務用の専を抜き取りながら背越しに答えた。
「……なんであの子が怯えるの?」
「おがマジな顔でるからだろ。あいつはが悪いだけで、悪気なんてないんだよ。姉貴なんだから、毎回そうやって本気でムキになるなって。それにさ、髪がくても悪くないだろ。うちの母さんも言ってたんだよ。の髪はすぎて鬱陶しい、結婚はくしろってさ。俺からずっと言いせなくて困ってたんだ。今回は結果オーライだろ」
織は作業のを完全に止め、ゆっくりと振り返って修平の顔を正面から見据えた。
「……お母さんが、切るように言ってたの?」
「そうだよ。だからさ――」
「じゃあ、修平。美結があのハサミで私の髪を切るって、最初からってたの?」
修平は缶コーヒーにをつけ、しバツが悪そうに線を泳がせながらも、悪びれる様子もなく平然と言い放った。
「……しに、美結ちゃんから聞かれたんだよ。『何をすればお姉ちゃんが番るか』ってな。だから適当に、『髪を事にしてるから、髪じゃないか』って答えただけだ。まさか本当にバッサリ切るとはわなかったけどな」
「……っていて、教えたのね。
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私が、あなたのために伸ばしてきたってっていながら」
「当たりだろ! だから面いんじゃないか。のものじゃつまらないし、がないだろ。おい、そんな怖い顔するなよ。俺はさ、おのその焦る顔が好きなんだよ。普段は能面みたいに無反応だから、あいつがからかってくれるおかげで、ようやくおもらしい表になるんじゃないか」
織の臓が、氷に漬けられたようにえ切っていく。 私の涙も。 私の恐怖も。 私の惨めでたまらない姿も。 この男にとっては、ただ自分好みの「らしい反応」を引きすための、極の娯楽に過ぎなかったのだ。
その、部のドアの隙から美結がひょっこりと顔をした。得げな笑みを浮かべ、腕を組んで修平に寄り添う。
「やっぱりね! お姉ちゃんのツボを番よく分かってるのは義兄さんだもんね。の両親の顔わせのだって、あのいワンピースにを塗る作戦、義兄さんの入れ恵だったじゃない」
修平の顔が、わずかに変わった。
「おい、美結。何言ってんだ、今その話は……」
「えー、だって本当のことじゃん! 『あいつはあのワンピースを番事にしてるから、のじゃダメだ』って言ったの義兄さんでしょ? 昨だってさ――」
「……もう、いい」
織は静かに言葉を遮った。 昨の。修平の両親との初めての正式な顔わせの事会。
織はアルバイト代からコツコツ貯めたおで買った、とっておきの純のワンピースを着て臨んだ。だが、会の料亭に着いてから、修平の母親はずっと織の背にややかな線を投げかけ、骨にそうな態度を取り続けた。何が起きたのか分からず、針の筵のようなを耐え抜き、帰宅に洗面所の鏡を見て初めてったのだ。 背の真んに、真っ赤なで、巨なハートマークが塗りたくられていたことを。 美結に「かける直に抱きつかれた」のことだった。あの夜、織は声を殺して朝まで泣いた。
「いつの話をしてるんだよ」
修平が居悪そうにを鳴らし、ちがった。
「今さら蒸し返すなよ。なあ美結ちゃん、お姉ちゃんは本当に根に持つタイプだよな」
「ほんとそれ。ちょっとお姉ちゃん、冗談通じなさすぎ」
は顔を見わせてクスクスと笑いった。 織はく息を吐きし、乱れた類をえながら、極めて平坦な声で告げた。
「……ええ。もういいわ」
その言葉を聞いた修平は、嫌を直したとい込んだのか、満そうに織の肩にを置こうとした。
「そう来なくちゃな! 嫌が直ったら、末の婚約式の写真を撮り直そうぜ。髪がくても、ベールを被ればなんとかなるだろ」
織はそのを、自然な作でを引いてかわした。
修平と美結がリビングへとっていった、織はすぐにスマートフォンの通話履歴をいた。