"断髪の夜に消えた七年目の花嫁" 第4話
未練があったのは髪に対してではなく、あの頃の優しい修平というに対してだけだったのだ。
会計を済ませてサロンをると、すでに刻は夜のを回っていた。 実へと戻り、リビングのドアをけると、玄関には脱ぎ散らかされた何もの靴があった。リビングのかりの、卓を囲んで歓声をげている声が響く。
「あ、帰ってきた。あらまあ……すっかり田舎のみたいじゃないの」
美結がにした串焼きをに運びながら、げらげらと笑った。ソファに座る母も、ビール缶を片に呆れたような線を向けてくる。
「随分とくしたわねえ。腕の悪い美容師に当たったんじゃないの? まるでみすぼらしい男の子みたいじゃないの」
織は玄関にったまま、卓のに並ぶ台の残骸を見つめた。焼きそばのパック、たこ焼きの舟、そして美結の元にある鮮やかな提灯。
「……みんなで、灯籠祭りにってきたの?」
織の問いに、母は悪びれる様子もなく焼き鳥の串を置いた。
「ええ、急にくことになったのよ。夜遅くなると混雑するから、今のうちに回っちゃおうって美結が言うから。あんたは髪を切りにってたんでしょ? 緒にけなくて残だったわね、また今度けばいいじゃない」
「……朝、約束したよね。私が髪をえて戻ってきたら、みんなで緒にこうって言ったじゃない」
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「何言ってるんだよ、織」
ソファで寛いでいた修平が、爪楊枝で歯をつつきながら面倒そうにを挟んだ。
「たかが所の灯籠祭りだろ。来だって再来だってやってるんだから、次がないわけでもあるまいし。そんなことでいちいち突っかかるなよ」
その、織の線が美結の元に留まった。 美結の艶やかな黒髪を留めているのは、華奢な細にさな淡パールがあしらわれたヘアピンだった。 織の臓が、トクンと嫌な音をてた。
「……美結。それ、私のヘアピンよ」
美結は元にを当て、わざとらしく目を丸くしてパチパチと瞬きをした。
「ってるわよ。でもお姉ちゃん、もう髪がそんなにいんだから、ヘアピンなんて使えないでしょ? 数借りるだけじゃない。減るもんじゃあるまいし」
「返して。今すぐして」
織が歩を踏みすと、母が苛ちをわにしてバンと卓を叩いた。
「いい加減にしなさい! たかがヘアピンつで、妹相にそこまでムキになることないでしょう! 美結がちょっとオシャレにつけるだけじゃないの。あんたにはもう留める髪すらないんだから、引きしにしまっておいたって埃をかぶるだけよ! ボロいピンつで姉妹喧嘩なんてみっともない!」
「ボロいピンじゃない!」
織の声が、わず裏返った。喉の奥が引き裂かれそうだった。
「昨の私の誕に、修平がくれたものよ……! 初めて彼が、私のために選んでくれたプレゼントだったのよ!」
織は修平に縋るような線を向けた。だが、修平のから漏れたのは、底から鬱陶しそうな溜息だった。
「ああ、あれか……。なんだ、そんな昔の物かよ。なら美結ちゃんにつけさせてやれよ。ちょうど今のあの子のスカートのにもぴったりってるしな。またしいの買ってやるからさ」
「ほらね! お兄さんもいいって言ってるわ!」
美結は勝ち誇った笑みを浮かべ、ヘアピンを指先で弾いて見せた。 修平は満そうに美結に微笑みかけ、母は「ほら、お茶でも入れなさい」と織を顎で使おうとする。
このたちにとって。 美結が欲しがりさえすれば、私が切にしているものはすべて譲るのが当然なのだ。も、尊厳も、いも、そして未来さえも。
織は静かに目を伏せ、握りしめていた拳をゆっくりと解いた。 もう、何も言わなかった。 ので、徹なカウントダウンが始まっていた。 関支社への着任は。引き継ぎと荷物の理、引っ越し業者の配。 あれば、分だ。 このに残るなものは、いも含めて、すべてここに置いていけばいい。
翌朝、織が自で淡々と私物の仕分けをしていると、ノックもなしにドアがき、修平が缶コーヒーを片に入ってきた。
部のの段ボール箱を瞥することもなく、ベッドの端に腰をろす。