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"断髪の夜に消えた七年目の花嫁" 第3話

「お姉ちゃん、ちょっとこっち向いて笑ってよ! これって節限定のスペシャルスタイルじゃん! 画のタイトルももう決めてあるんだ。『姉が女から落ち武者になるまでハサミ発』ってね。絶対にバズるから!」

美結の甲い笑い声が、の奥を突き刺す。 織は、受話器を握る指に力を込めた。

これまで、この関支社への異の打診を、織は度も断っていた。 度目は、母に「関なんてすぎる、の事や美結の面倒は誰が見るの」と泣きつかれ、罪悪を植え付けられたからだった。 度目は、修平に「今の末には婚約式を挙げて籍を入れるんだから、女が今さらくへってキャリアなんて無理するな」と引き止められたからだった。 彼らのそばにいたくて、彼らに必とされていると信じたくて、自分の未来を度もドブに捨てた。

だが、目のにいるこの者たちはどうだ。 自分の切な髪を踏みにじり、尊厳を奪い、それをコンテンツにして笑い、百円の賭けの対象にしている。 もう、この者たちの残酷なお遊びに付きうのは、んでもごめんだ。

織はく息を吸い込み、え切った声で受話器に向かって告げた。

「……はい。お受けします。関支社へかせてください」

『本当かい!? 助かるよ! すぐに続きをめる。の朝番で辞令をすから、引き継ぎの準備を頼むよ』

通話を切ると、織は美結のカメラをたく見据え、度も線をわせることなく玄関へと向かった。

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背から「え、どこくの?」「嫌悪っ」という声が追いかけてきたが、靴を履き、ドアノブを回すのきを止めることはなかった。

にると、の夜が剥きしの部を容赦なく撫でた。信じられないほど寒かった。、常に首元を温めてくれていた黒髪のみが、完全に消えっていた。

タクシーを拾い、駅の夜まで営業しているヘアサロンへび込んだ。 鏡のに案内された配の美容師は、織の髪の毛を見るなり、絶句してハサミを持つを止めた。

「……お嬢さん、これ……どうされたんですか。これじゃあ、エクステで繋ぐこともできませんよ。切った、素……どころの騒ぎじゃないですね。の髪まで根本からブツブツに途切れてます」

「……ええ、っています」

織は鏡のの、惨めに毛羽った自分のを見つめながら、静かに言った。

「全体をくするしかありませんよね。切ってください。ベリーショートで構いません。えられる限界まで、くしてください」

「……わかりました。できる限り、綺麗にえますからね」

美容師が丁寧にお湯で髪を流し、ハサミを入れ始めた。シャキ、シャキと規則な音がで響く。 髪を切ったことがないわけではなかった。 ただ、切ることを許されなかったのだ。

社会として働き始めたばかりの頃、料は取りで万円にも満たず、毎朝以も満員に揺られてすり減っていた。

あの最も辛く貧しかった期、支えてくれたのは修平だった。古い賃貸アパートの狭い階段のにで並んで座り、つのカップラーメンを分けってべた夜があった。えたスープを啜りながら、修平は織のい髪を指に巻きつけ、おしそうに囁いたのだ。

『切るなよな。織はロングヘアの方が絶対に似うよ。将来、結婚式を挙げるも、この髪型でウェディングドレスを着てくれよな』

修平は、私のい黒髪が好きだった。 だから、彼に従った。彼の好む女でありたくて、彼の隣で胸を張れる嫁になりたくて、気づけばもの歳を、この髪とともに過ごしてきた。

「はい、お疲れ様でした。どうでしょうか。ショートもすごくすっきりして、お顔ちが映えて似ってますよ」

美容師の優しい声で、織はに返った。 鏡のには、元がすっきりとし、襟をタイトに刈り揃えられた見らぬ自分がいた。かつての苦しい黒髪はなく、のように清潔で、どこか凛とした輪郭がそこにあった。

織はそっと首を傾げ、部に触れた。軽い。驚くほどにが軽かった。 なんだ、との底から乾いたいが湧きがった。 あんなに執着し、守り抜かなければならないとい込んでいた髪なのに、失ってしまえば、驚くほど未練など残っていなかった。

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