"あの道は、学校へ続いていなかった" 第9話
「あの女の最の逃げを塞いだのは、おだよ」
の奥で、血液が逆流するようない音が鳴っていた。
界の端が、くかすむ。
父はすでに線を私からし、え切った畳の目を数えるように見つめていた。
その横顔には、何のの波もっていなかった。
「……私のせいだと、言いたいのか」
自分の声が、の声のようにく聞こえた。
「おがを見せたから、旦が警戒した。それだけのことだ」
父はさく息を吐いた。
「わしは、頼まれた通りに現の状況を伝えただけだ。何も嘘は言っとらん」
「嘘を言わなければ、それで済むとっているのか」
父は答えなかった。
ただ、麻痺の残るの指先を、膝のでかすかに震わせていただけだった。
私は、のに握りしめていた国語の練習帳を見つめた。
擦り切れたの角が、のひらの皮にい込んでいた。
【警察ではなく、姉に話してください】
震えるで真似ていた、の私の文字。
私はあの朝、階の窓に押し当てられた文字を、ただの珍しい記号のように写し取った。
そして、に帰って父親に見せた。
『これ、なんて読むの?』
無邪気な声で、そう尋ねたはずだ。
その瞬、父がどんな顔をしたのか。
どうして、その記憶だけが綺麗に欠落しているのか。
父は私からノートを取りげ、そののうちに佐野のへ向かったのだ。
広告
『奥さんが、子どもを使ってと連絡を取ろうとしていますよ』
その言葉が、階の部にどんな暴力をもたらしたのか。
父はっていて、その夜、止血をしにったのだ。
「委任状は、どうした」
父が、く言った。
「産が待っとる。実と裏の私をまとめて引き渡す類だ。おの実印がる」
「……押さない」
「何?」
父の目が、ぎろりとこちらを睨んだ。
「まだそんな戯言を言っとるのか。あそこのが売れなきゃ、わしの施設の入所が払えんだろうが」
「澄さんは、どうなったんだ」
「らんと言っとるだろ!」
父が鳴り、喉を詰まらせて激しく咳き込んだ。
肩を激しくさせ、元から沫を散らす。
「んだかきとるかもらん! あのは、以にここをてったんだ!」
「佐野の旦もか?」
「脳溢血でんだよ。でな。あのので、誰にも取られずに腐りかけて見つかった。それで終わりだ!」
父は胸を押さえながら、憎々しげに言い放った。
「因果応報だ。それでいいだろうが。これ以、何を蒸し返す気だ」
私は父のにっていた。
かつてはきく、厳格で、逆らうことなど考えられもしなかった男。
その体はさく縮み、ただ自分の老の居所を守るためだけに、必に過の蓋を押さえつけていた。
「私は、調べる」
「貴志!」
「あのがどうなったのか、確認するまで、この類には絶対に判を押さない」
私はノートを抱え、玄関へ向かった。
背で、父が畳を叩く鈍い音が響いた。
「恩らずが……! 誰ので学までったとっとるんだ!」
号を背に浴びながら、私は玄関の引き戸を閉めた。
乾いたのが、照った頬を撫でていった。
京へ戻る幹線ので、私はノートの話番号を見つめ続けていた。
局番は「027」。
群馬県の番号だった。
の話番号が、今も繋がるはずはない。
私は品川のオフィスに戻ってからも、仕事がにつかなかった。
昼休み、私は旧の司法士に連絡を入れた。
父のの登記簿を取り寄せた際、佐野邸の閉鎖謄本も緒にに入れていた。
佐野のは、数に競売にかけられ、最終に親族のをれていた。
しかし、附票を辿れば、名義だった夫のの除票から、親族の追跡が能ながある。
「森田さん、あんまり入りしない方がいいですよ」
話の向こうで、配の司法士が忠告してきた。
「方の古い産には、触れちゃいけない親族関係がいくらでも転がっていますから」
「だけでいいんです。佐野澄という女性が、今どこにいるのかりたいんです」
、ファックスが枚、私のデスクに届いた。
そこには、群馬県崎にある、簡素なアパートの所が印字されていた。
『佐野澄(旧姓:片桐)』
きている。
その文字を見た瞬、私の喉の奥から、い塊がせりがってきた。