"あの道は、学校へ続いていなかった" 第7話
「あなたは何のために、毎朝あそこにっていたんですか」
角田は怯える様子もなく、壁に背を預けてずるずると座り込んだ。
「何のためって……見張りだよ」
「誰の?」
「佐野の奥さんだよ。旦から頼まれてたんだ。毎、きてるかどうか確かめろってな」
乾いた告だった。
まるで、昨の気を話すような平淡さだった。
「きてるかどうか……?」
「あの奥さん、部から歩もしてもらえねえから、飯もろくにわねえでっていったんだ。でも、旦は医者を呼ぶのを嫌がった。世体があるからってな。の連に騒がれるのも困る」
角田は胸のチューブを指先で弄んだ。
「だから、俺が見にった。でもよ、俺がっても、あの奥さんは窓から顔をさねえんだよ。男が来ると、部の隅に隠れちまう」
私の呼吸が、浅くなった。
「だけどな、子どもの音がすると、窓に来るんだ」
角田の元が、歪んだ。
「ランドセルの揺れる音。靴の音。それを聞くと、奥さんはうようにして窓際にてくる。カーテンをけて、を見る」
「……だから、私を通わせたのか」
「おの親父が提案したんだよ」
臓の奥が、たい刃物で抉られたような痛みがった。
「正雄さんが言ったんだ。『うちの息子を毎朝同じに通らせる。あいつがを振って、階から振り返されたら、今も無事だってことだ』ってな」
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「親父が……?」
「毎週末、正雄さんは佐野の旦から賃を受け取ってたよ。酒の瓶と、封筒に入った現だ。俺にもそのからいくらか回ってきた」
角田は喉を鳴らして笑った。
「おはいい目印だったよ。何にもらねえで、毎朝決まったにやってきて、嬉しそうにを振るんだからな。奥さんも、おが来るのだけを待ってたんじゃねえか?」
「ふざけるな……!」
私はりに任せて老の胸倉を掴みそうになり、寸で踏みとどまった。
老はじることもなく、ただ々しく咳き込んだ。
「るなよ、坊主。俺たちだって、殺しをしたわけじゃねえ。……ただ、厄介ごとに巻き込まれたくなかっただけだ。佐野のは、この辺じゃ番の主だったんだからな」
「澄さんは、どうなったんだ」
「らねえよ。ある突然、居なくなった。……いや、逃げたのか、連れされたのか。そこまでは俺の仕事じゃねえ」
角田は目を閉じ、それ以話すのを拒むように首を横に振った。
実に戻ったとき、刻は正午を過ぎていた。
居では、父がでえた茶を啜っていた。
私が荒々しく引き戸をけて入ってきても、父は茶碗を置こうともしなかった。
「親父」
私は父のに、法務局で取ってきた役権の類を叩きつけた。
「これ、何だ」
父は類に線を落とした。
だが、眉ひとつかさなかった。
「……片付けの邪魔をするな。屑を広げるなと言ったはずだ」
「屑じゃない! 私が、佐野のの見張りに使われていた契約だ!」
私の叫び声が、古い鳴りを引き起こした。
父はゆっくりと茶碗を畳に置いた。
そのの甲に浮きた血管が、老いをじさせた。
「角田に会ってきたよ」
私は父の目を睨みつけた。
「全部聞いた。親父が佐野の旦からをもらって、私を毎朝分に通らせていたって。あのがきているかどうか、私を使って確かめさせていたって!」
父は沈黙を守っていた。
るでもなく、取り乱すでもなく、ただ淡な線を私の胸元に向けていた。
「学の、のこと、覚えてるだろ」
私は畳に膝をつき、父の顔に詰め寄った。
「あの朝、階の窓には誰もいなかった。私がいくら見げても、カーテンは閉まったままだった」
父の瞼が、かすかに痙攣した。
「学から帰ってきたら、親父は玄関で待ってたよな。『今、おばさんはいたか』って、ものすごい顔で聞いた」
「……」
「私が『いなかった』って答えたら、親父は顔を変えてびしていった。その夜、帰ってきたのは夜だった」
記憶が、崩のように押し寄せてくる。
「次の、あのは窓にっていた。でも、顔半分がどす黒く腫れがってた。……親父、あの夜、あので何があったんだ」
父の元が、わずかにいた。
乾いた舌が、唇を湿らせる。
「……何でもない」
「嘘をつくな!」
「ののことだ!」
父が、卓袱台を拳で叩いた。
鈍い音が居に響き渡った。