"あの道は、学校へ続いていなかった" 第4話
臓が、ねるのではなく、に浸されたようにたくなった。
「……?」
「毎朝、青いトタン塀の曲がり角に、作業を着た男のがっていたでしょう。箒を持って」
記憶の底から、輪郭のぼやけたが浮かびがってきた。
そうだ。
いた。
いつもの作業を着て、ぬぐいを首に巻いた、太りの男。
私が通り過ぎると、いつもく「おはよう」と声をかけてくれた。
私は彼を、町内会の清掃員か何かだとっていた。
「覚えてるよ。掃除をしてくれていたおじさんだろ」
「違うよ」
美紀のい声が、鼓膜を打った。
「あのおじさん、度も掃除なんてしてなかった」
「え……?」
「私、学のまで、あのを通らされていたの」
通らされていた。
美紀の使った自然なに、私の指先が直した。
「うちのばあちゃんにね、毎朝『裏の佐野さんのの横を通っておき』って言われてたの。理由は教えてくれなかった。ただ、半になったらをて、あそこを通りなさいって」
美紀はさく息を吸った。
「でもある朝、角を曲がったときに見ちゃったの。その作業のおじさんが、箒を面にてたまま、じっと佐野さんのの階を見げているのを」
「階を……」
「箒の先は、品みたいに綺麗だった。面の落ち葉なんて枚も掃いてなかった。男のはただ、階の窓に誰かがつ板を待つみたいに、じっとってたの」
広告
が吹き抜け、元の雑をざわざわと揺らした。
暮れきった空の、目のの廃が、巨な黒いとなって私に覆いかぶさってくるようだった。
「私、怖くなってばあちゃんに言ったの。『あのおじさん、掃除してないよ。ずっとを見てて怖い』って」
「そしたら、おばあさんは何て?」
「次のから、通学を変えられた」
美紀の声が震えていた。
「『もうあそこは通らなくていい』って、ひどくられた。理由を聞いても教えてくれなかった。それから私は、修平くんたちと同じ赤いポストのをくようになったの」
話の向こうで、美紀が唾をみ込む音が聞こえた。
「貴志くん」
「……何?」
「あなた、あそこをまで歩き続けたんでしょう?」
「……ああ」
「どうして、あなただけ止められなかったの?」
答えられるはずがなかった。
私自が、今その理由をろうとしているのだから。
「私ね、護師になってから、精神科の病棟にいたことがあるの」
美紀は独り言のように、静かに語り始めた。
「そこでね、族から虐待やネグレクトを受けて、部に閉じ込められていた患者さんを何も見たわ。にられないってね、界との繋がりを必で探すの。とか、音とか……決まったに通る、誰かの音とか」
私の脳裏に、あの女の顔が浮かんだ。
曇ったガラス越しに、こちらを見つめていた、血の気のないい顔。
「貴志くん。あのおじさんは、あなたを見守っていたんじゃないとう」
美紀の言葉が、私の胸にく突き刺さる。
「あなたが通ることで、階のがどう反応するかを……確かめていたんじゃないの?」
通話を終えたあと、私はけなくなっていた。
スマートフォンの画面が消え、完全なが私を包み込んだ。
灯のも届かない、廃。
かつて私が「通学」だと信じ込んでいた、き止まりの空。
ざざっ、と背で音がした。
元の砂利が擦れう音。
私は弾かれたように振り返った。
メートルほど方、青いトタン塀の切れ目に、があった。
腰の曲がった柄なが、両にゴミ袋を提げてっていた。
所の老婦だった。
私が子どもの頃、向かいの畑でよく野菜を作っていた、髪の老婆だ。
老婆はのから、濁った両目でじっと私を見つめていた。
「……誰かね」
掠れた、湿り気のある声だった。
「こんなところで、何をしてるんだい」
「……森田です」
私は乾いた声をした。
「正雄の息子の、貴志です」
老婆の眉が、ピクリといた。
彼女はゴミ袋を面に置き、すりで歩、こちらへづいてきた。
顔のい皺が、くの灯のかりに照らしされる。
「ああ……正雄さんとこの。貴志ちゃんかい」
「はい。実の理に戻ってきて……昔のを、懐かしくて見ていたんです」
「?」
老婆は奇妙な笑みを元に浮かべた。
歯の抜けた元が、黒い洞のように歪む。