"あの道は、学校へ続いていなかった" 第3話
抜けられる。
この戸を通り抜ければ、確かに学の敷裏にる。
しかし、それは公でも、通学でもない。
民の敷を通り抜けるための、ただの勝だ。
たいものが、首筋をすっと撫でていった。
子どもの頃の私は、毎朝この所を通っていた。
度だって、鍵の掛かった扉に突き当たった記憶はない。
いつも、何のもなく、すんなりと通り抜けていた。
毎朝分。
誰が、この鍵をけていたのか。
そして、誰が私の通過を確認したあとに、再び鍵を閉めていたのか。
擁壁に背を預け、私はポケットからスマートフォンを取りした。
連絡先のから、実をて隣町の役所に勤めている幼馴染、藤沢修平の名を探した。
発信ボタンを押す。
回ほどの呼びし音のあと、聞き慣れた男の声が聞こえた。
「もしもし、貴志? どうした急に。今、実に戻ってんだろ?」
「修平、いきなり変なこと聞いて悪いんだけどさ」
私は息をえながら話しかけた。
「お、学の頃、登するときどのを通ってた?」
「は? 登ルート?」
話の向こうで、修平が呆れたように笑った。
「なんだよそれ。あの急な坂だよ。途に赤い丸ポストがあっただろ。あそこをって通ってたよ」
喉の奥が、ぎゅっと縮まった。
「赤いポスト……? 違うだろ。青いトタン塀のだよ。佐野さんのの横を抜ける。
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でいつも、そこを通ってただろ」
修平の笑い声が、ぴたりと止まった。
「……貴志、お、何言ってんの?」
「何って」
「佐野さんのの横なんて、通るわけないだろ。あそこはき止まりだし、そもそもが『あっちにはづくな』ってうるさかったじゃないか」
受話器を握る指先が、くなるほど力が入った。
「でも、俺たちいつも緒に登してたじゃないか。毎朝、顔をわせて……」
「流してたんだよ」
修平の声は、急にく、静かになっていた。
「学の裏のの、字で」
「字……」
「俺と美紀と健太のは、赤いポストの坂をりてきて、字で待ってたんだ。そうすると、いつもおがで、裏の細いからっててきたんだよ」
のの景が、音をてて歪んでいく。
毎朝の記憶。
字に着くと、いつもがランドセルを背負って待っていた。
『貴志、遅いぞ』
修平が笑って、私の背を叩いた。
私はそれを、たまたま自分が番が遅いからだとっていた。
最初から最まで、で並んで歩いていたとい込んでいた。
違った。
私だけが、別の所から吐きされていたのだ。
「貴志、おさ」
修平が、戸惑うように言った。
「本当に、であのを歩いてたのか? 学の、ずっと?」
「……ああ」
「あそこ、朝のはいつも鍵が閉まってたはずだぞ。俺の親父が昔、の関係で佐野さんとこの境界揉めに関わってたからってるけど……あそこは完全に私だったんだ」
私は返事ができなかった。
線をげると、夕のに沈む階建ての民が見えた。
佐野邸。
がまなくなって久しいそのは、壁のモルタルが剥がれ落ち、肋骨のようなが剥きしになっていた。
階の、あの窓。
窓枠には、頑丈なベニヤ板が何本もの太い釘で打ち付けられ、完全に塞がれていた。
かつて、いを着た女がっていた所だ。
「修平、もう、美紀の連絡先わかるか」
「美紀? 川の? LINEならってるけど……どうしたんだよ本当に」
「いいから、教えてくれ」
修平から連絡先を受け取り、すぐに通話を繋いだ。
川美紀は、つ隣の県で護師をしているはずだった。
呼びし音がく続き、切れる寸で通話が繋がった。
「……はい、もしもし」
し疲れたような、落ち着いた女性の声だった。
「美紀ちゃん? 森田貴志です。急にごめん」
「貴志くん……? え、どうしたの、こんなに。何かあった?」
私はに、自分が今実に戻っていること、そして通学のことを話した。
美紀は途で相槌を打つのをやめ、ただ静かに私の話を聞いていた。
私が話し終えても、受話器の向こうからは微かな擦れの音しか聞こえなかった。
い、苦しい沈黙だった。
「……美紀ちゃん?」
「貴志くん」
美紀の声は、昼の父の声にどこか似ていた。
ひどく慎で、氷を踏むような声だった。
「あなた、あのを通るとき、角にがっていたのを覚えてる?」