"「母の十分は無駄」と笑った夫の失脚" 第13話
逃げを完全に失った男が、のりと絶望のに引きずりされるが、すぐそこまで迫っていた。
曜の午。 サン・ケアサービス本社の会議の空気は、鉛のようにく沈んでいた。
コの字型に並べられた机の向かい側には、組の入居者とその族が座っていた。 子に乗った齢者、付き添いの息子や娘たち。 号がび交っているわけではない。 部を満たしていたのは、言葉を失うほどのえ切った沈黙と、抑え込まれた侮蔑の線だった。
ドアがき、川に促されての男が入ってきた。
……夫だった。
かつての営業部の面は、どこにもなかった。 肩は落ち、背は丸まり、調したはずの濃紺のスーツは皺だらけだった。 伏せられた目は赤く充血し、入居者たちの顔を直することすらできずに、を引きずりながら央の証言席へとみた。
「これより、弊社製品に関する特別説会を始いたします」
川が々しくをいた。
「まず、社内特別調査委員会による事実関係の報告をいます。当該器には、転倒を未然に防ぐ能、および夜の巡回を代替する能力は切備わっておりません。それにもかかわらず、元営業部・佐藤健は、私な営業成績の獲得を目とし、事実と異なる虚偽の性能を説し、契約を締結させました」
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元の資料をめくる乾いた音だけが、静寂のに響く。
「……佐藤元部」
川が酷な線を夫に向けた。
「確認します。あなたは、この器が夜巡回の代わりにならないことを、販売点でっていましたか?」
夫の体が、ビクッとねた。 喉仏がし、脂汗が額からぽたぽたとテーブルに滴り落ちる。 数秒、秒……窒息しそうな沈黙が流れた。
「……し、って……いました」
掠れた、消え入りそうな声だった。 マイクがそのさな告を拾い、スピーカーを通じて部の隅々にまで反響した。
入居者たちのから、いため息と、息を呑む気配が漏れた。
「では」
最列に座っていた恵子さんが、ゆっくりとちがった。 その目は、まっすぐに夫の眉を射抜いていた。
「っていながら、なぜ私の母に、夜巡回を解約するようきの計算まで渡して勧めたのですか? 母の命がどうなってもいいと、そうっていたのですか?」
夫は両を膝ので固く握りしめ、震える唇をいた。 言い訳を探すように、線があちこちへ泳ぐ。 しかし、ここにはもう、鳴り散らして従わせる妻も、ご嫌を取ってくれる部もいない。 面楚の現実が、逃げをすべて塞いでいた。
「……そ、その方が……」
夫のから、乾いた息が漏れた。
「その方が……契約が、取りやすかったからです」
あまりにも浅ましく、あまりにも勝な。
鳴り声はがらなかった。 罵声も浴びせられなかった。 ただ、そのにいた全員の目が、完全にえ切った。
としての尊厳を、自らので完全に踏みにじった男に対する、絶対な拒絶。 どんな罵倒よりもい沈黙が、夫の全にのしかかっていた。 男のが、テーブルに擦り切れるほどく垂れがった。
その、私の隣に座っていた母が、静かにちがった。
杖を握る母のは、しも震えていなかった。
「佐藤さん」
母の落ち着いた声が、静まり返った部に染み渡る。 夫が恐る恐る、罪のように顔をげた。
「うちの娘が、なぜもの、あなたにし続けてきたか分かりますか?」
夫は答えられず、ただ怯えたように母を見つめ返した。
「自分がもうしすれば、いつかあなたが真っ当なになってくれると信じていたからですよ。自分の苦労よりも、あなたの体裁を守ることを優先してきたからです」
母の瞳に、わずかなれみのが浮かんだ。
「でも、あなたは変わらなかった。変わらないどころか、の命の危険をに換えて恥じないに成りがった。……もう、私の娘にあなたの背負ったを拭わせることは、絶対にさせません」
母は礼し、子に座り直した。 夫は崩れ落ちるように両で顔を覆い、肩を激しく震わせながら、声を殺して泣き始めた。
その涙に同するは、この部のどこにもとしていなかった。