"産後5日の病室で、娘を奪う義母が夫を殴りつけた" 第15話
「あなたのなんて、とっくに終わっているわ」
「な……んだと!?」
健太が逆し、ポケットからを引き抜いて私の肩を掴もうとした、その瞬だった。
「警察です。健太さん、かないでください」
から素く踏み込んできたの男性が、健太の両腕をの業で背へねじげた。
「ぐあっ……!? な、何だおら! せ!」
「佐藤健太、34歳ですね。建造物侵入、器物損壊、ならびに恐未遂の疑いで任同を求めます」
警察帳が、健太の先に突きつけられた。
ロビーの喧騒が、瞬で凍りついた。 周囲の患者や見い客が息を呑み、巻きに輪を作って事態を見守る。
「ち、違う! 誤解だ! 俺は父親だぞ! 産の妻を迎えに来ただけだ!」
健太は顔を真っ赤にして喚き散らし、を蹴って暴れようとした。 しかし、鍛えげられた警察官の拘束は微だにしなかった。
「誤解ではありません」
混みをかき分けて歩みてきたのは、私の弁護士だった。 元のクリアファイルを健太の目のでいて見せる。
「養子縁組を装った300万円の詐欺為について、先方のご夫婦から全LINE履歴と振込記録の任提を受けました。また、今朝あなたが由紀さんの病に残していった刃物による損壊物、脅迫状の指紋鑑定もんでいます。さらに——」
弁護士はややかに続けた。
「お母様からも、あなたが借返済のために孫の売却を計画していた旨の供述調がすでに警察へ提されています」
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「母さん……? 母さんが……!?」
健太のから、魂の抜けたような声が漏れた。
実の母親にすら見捨てられ、売られた。 その事実が、夫の最の拠り所だった傲さを完全に打ち砕いた。
「嘘だ……嘘だろ……! 母さんの借のためにやってやったのに……何で俺だけが……!」
「いいえ、健太さん」
私は胸ので静かに眠る娘のを撫でながら、氷のようにたい声で言い放った。
「あなたは誰のためでもなく、ただ自分が楽になりたかっただけ。自分の見栄とさのために、まれて数の娘の命を売りばそうとしたのよ」
健太の線が、私の腕のの娘へと注がれた。 その瞳には、父親としての悔など片もなく、ただに入らなかったへの未練と、自らを破滅へ追いやったへの怨嗟だけが渦巻いていた。
「お……よくも俺をハメたな……! 許さねえぞ……許さねえからな由紀!!」
見苦しく鳴り散らす夫の姿を、ロビーにいる誰として同の目で見つめる者はいなかった。 注がれていたのは、軽蔑と嫌悪の差しだけだった。
「連れてきます」
警察官に両脇を固められ、健太は引きずられるようにして正面玄関のパトカーへと連されていった。 ガラス扉の向こうへ消えていく背は、驚くほどさく、無様だった。
張り詰めていた糸が切れ、私の膝がガクガクと震え始めた。 助産師がそっと私の背を支えてくれた。
「由紀さん、よく頑張りましたね。もう丈夫ですよ」
腕ので、娘が「ふにゃあ」とさくあくびをした。 その温もりが、私のえ切った指先をじんわりと温めていく。
終わったのだ。 あの暗く湿った悪の檻から、私たちは抜けしたのだ。
そのの続きは、制度の壁に守られながら事務に、徹にんでいった。
健太は恐未遂と器物損壊の容疑で逮捕され、そのの余罪捜査で特別養子縁組を装った詐欺未遂も件された。 会社には逮捕の事実が直ちにれ渡り、懲戒解雇処分がった。 退職もず、残されたのはからの法な利息と、養子希望者への300万円の返還義務、そして私への慰謝料請求だけだった。 自己破産を申してたものの、悪質な法為に基づく損害賠償請求は免責されない。 あのはこれから、をかけて自らが犯した罪のさを、毎の返済という現実でわい続けることになる。
義母の結末もまた、れなものだった。 担保に入っていた自宅のと建物は、融業者のによって競売にかけられた。 親戚に孫を売りばそうとした悪がれ渡り、誰として義母にを差し伸べる者はいなかった。 世体と見栄だけをきがいにしてきた女が、すべてを失い、くれた沿いの古い県営団へとを寄せたという。