"産後5日の病室で、娘を奪う義母が夫を殴りつけた" 第3話
「……健太さん!」
女性がベビーキャリーを抱き直しながら、りで駆け寄ってきた。 夫の男性も、にに続く。
健太の顔から、完全に血の気が引いた。 のように真っになった夫は、ずさりしてナースステーションのカウンターに背をぶつけた。
「あ……、な……」
声にすらならない夫の狼狽をよそに、女性は涙ぐみながら、け放たれた病の奥——アクリルコットので眠る私の娘へと線を注いだ。 その瞳は、狂おしいほどの憧憬とに満ちていた。
そして、信じられない言葉が、その女性のから零れ落ちた。
「健太さん、にって良かったです……! これが、約束の……私たちが300万円お支払いした、あの子ですね?」
静寂が、病と廊を支配した。
赤ん坊の微かな呼吸音すら聞こえそうなほど、そのの空気が完全に凍りついた。
……は? 300万? 約束の、あの子……?
私のので、言葉がバラバラに散らばり、を結ばない。 助産師たちも目を見張り、ぽかんとをけたまま固まっている。
誰よりも激しく直したのは、さっきまで私を罵倒し、勝ち誇っていた義母だった。 義母の顔から、急速に気が失われていく。 首が錆びついた械のように、ギギギと音をてて健太の方へと向けられた。
「……健太? あんた、今……この、何て言ったの?」
義母の声は、掠れて震えていた。 先ほどまでの甲い声はどこにもない。
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ただの、理解の追いつかない老いた女の怯えだった。
「300万って……何よ。約束って、何の約束よ……!?」
駆けつけてきた見らぬ女性は、義母のただならぬ様子に戸惑い、隣の夫を見げた。 夫の男性が、落ち着いた、しかしどこかビジネスライクな調でをいた。
「どういうことですか? 私たちは、健太さんから指定されたにここへ伺いました。すでに先週、付と諸経費として、提示された指定座に300万円の送を完しています」
男性はブリーフケースをけ、クリアファイルに挟まれた数枚の類を取りした。
「奥様のご実の事業失敗による経済困窮、ならびに奥様ご本の産鬱による育児放棄の恐れから、産まれた直の乳児を当方へ託したいと……。民斡旋を介した『特別養子縁組』を提とした引き取りのです。奥様もすでに同し、退院当に病で引き渡す段取りになっていると、健太さんから伺っていましたが?」
類の文面が、私の界にび込んできた。 そこには確かに、私の名と、健太の名、そして見らぬ夫婦の名が印字されていた。
全の毛穴から、や汗が気に噴きした。 震えが止まらない。 の力が抜け、そのに崩れ落ちそうになるのを、くのすりにしがみついて必に耐えた。
実の事業失敗? 私の産鬱? 育児放棄……?
全部、嘘だ。 私の実は、父が細々と務を営んでいるが、借など切ない。 私は度も、子供を放したいなどと言ったことはない。 健太は——私の夫は、私が命がけでお腹ので育て、腹を裂いて産んだこの子を、見らぬに300万円で売りばそうとしていたのだ。
「う、嘘……嘘でしょう……? 健太さん、あなた、何を……!」
私の鳴のような問いかけに、健太は元をピクピクと痙攣させ、言も返せない。 ただ線をに落とし、呼吸を荒くしている。
そのだった。
「ああああああっ!!」
突然、をつんざくような絶叫が病に響き渡った。
義母だった。 義母は髪交じりの髪を振り乱し、狂ったような形相で病のへ突した。 そして、コットにづこうとしていた見らぬ夫婦を体当たりするように突きばすと、にいた私の娘を、おくるみごと乱暴に引っ張りげた。
「きゃっ!」 「な、何をするんですか!」
突きばされた女性が鳴をあげ、男性が声をげる。 だが、義母は彼らに目もくれなかった。
義母は震える両腕で赤ん坊を抱きかかえると、廊の壁にしがみついていた私の元へと猛然と駆け寄ってきた。 そして、引に、私の胸のへと赤ん坊を押し込んできたのだ。
「抱きなさい!!」
義母の目が血り、唾が私の頬にんだ。
「しっかり抱くのよ、由紀さん! 腕をしちゃダメ! 絶対に、健太にも、この得体のれない連にも渡しちゃダメ!!」
押し付けられた娘の温もり。